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戦争の物理学 [著]バリー・パーカー

[評者]五十嵐太郎(建築批評家・東北大学教授)

[掲載]2016年04月17日

[ジャンル]歴史 科学・生物

表紙画像

■兵器の進化、時代背景から学ぶ

 数年前のケータイやパソコンが時代遅れになってしまうように、テクノロジーは進化を続け、一般的に最新のものが常にベストで、すぐに過去は忘却される。だが、戦争と物理学の関係を振り返る本書は、歴史と科学が融合する興味深い読書体験を与えてくれる。
 例えば、学校の物理で習ったファラデーの法則で知られる電磁気の研究から、産業革命という時代背景、そして南北戦争における電気や電信の導入が語られる。法則や公式という無味乾燥な結果だけを暗記させられる教科書に対し、それぞれの発見が当時どのような意味をもっていたかが生き生きと伝わる。現在の日常生活はこうした科学の蓄積の上に成立しているが、古来、戦争はとくに技術の可能性を大きく引き上げる契機となってきた。本書は、物理が苦手という人にとっても、様々な歴史的なエピソードを通じて基本的な知識を理解する格好の入門書になるだろう。
 物理学はモノの動きを扱う。ゆえに、弓矢、投石機、銃、大砲、戦闘機、潜水艦など、各時代に登場した兵器がどんなメカニズムで動くのかが説明される。例えば、弾道学では、砲内(銃尾から銃口まで)、過渡(弾が銃口を離れた直後)、砲外(空中の挙動)、終末(標的に当たった後)の4段階に分け、火薬、ガス、反作用、音波、空気抵抗、風、重力、回転、遠心力と凝集力、標的への運動エネルギーの移行など、諸要素を検討する。
 本書の最後のハイライトは数千人規模の労力で開発された原爆だが、改めて、20世紀の戦争が効率的な破壊と大量死を可能にする恐るべき兵器の数々を生み出したことがわかる。ライト兄弟は空を飛ぶ夢を初めて実現したが、11年後の第1次世界大戦ではもう軍用化されていた。本書は必ずしも科学の倫理を問うものではない。だがそれを考えるにしてもまず必要な歴史的事実を学ぶための材料を、数多く提供している。
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 藤原多伽夫訳、白揚社・3024円/Barry Parker 米アイダホ州立大学物理学名誉教授。『アインシュタインの遺産』『アインシュタインの情熱』など。

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