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日本文学源流史 [著]藤井貞和

[評者]蜂飼耳(詩人・作家)

[掲載]2016年04月24日

[ジャンル]人文

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■新たな〈発生〉うながす視点

 藤井貞和は、独自の視点に立つこの文学源流史を描き出すにあたって、折口信夫の〈発生〉の考え方をこう解釈する。それは「繰り返し発生する動態」のことではないかと。源流は一つではない、という捉え方だ。「時代ごとに、さらには時代と時代とのあいだに源流があり、〈発生〉がわだかまるさまを、複数文化として把握したい」と。
 時間の流れは、次のように分けられている。神話紀(縄文時代)・昔話紀(弥生時代)・フルコト紀(古墳時代)・物語紀(七、八世紀から十三、十四世紀)・ファンタジー紀(十四、十五世紀から現代)。学識にもとづく直感が、随所で大胆な動きを見せる。たとえば、昔話は、時代から時代への「危機において大量に発生する」という。戦争や混乱による時代の画期に、矛盾をそのまま取り込みながらも伝承される事柄や歌。弥生時代に昔話紀の源流がある。そう著者は考える。この発想の背後には、縄文から弥生への交代期のショックが伝承の発生をうながしたという推測があるのだ。
 古伝承を基礎に出来た『古事記』を語った後、記述は琉球弧・沖縄諸島へ移る。歴史を語る史歌のこと。続いて、アイヌ文学に一章が割かれる。日本語にはないアイヌ語の特色が記され、はるか遠い時代からの共存/交争関係が想像される。
 『源氏物語』に見られる多様な宗教観のこと。平安の物語文学と中世以降の物語とで異なる、〈完結〉性について。中世の歴史叙述に見られる、何かを著すことが何かを隠蔽(いんぺい)する性質のこと。国学の発生、鎖国、本居宣長への批判。「在来文化の急速な否定と欧化」という点で、十六〜十七世紀と明治時代を相似形だとする視点。いくつもの源流を捉えようとする本書は、その在り方からして一本の線でまとめられることを拒む。
 本書において物語学と詩学は重なる。いまそれが出来る書き手は著者だけだ。古代から中世、近世、現代へ。伝統的な音律、定型詩から自由詩へ。詩人である著者の関心は、口語自由詩の源流へ向かう。鎖状に続く鎖連歌は十二世紀後半に流行。「現代詩のルーツ」として、中国詩(漢詩)と欧米詩(明治期に受けた影響)とともに鎖連歌を考えたいという。近現代詩の、横へ横へと改行するかたちの源流に鎖連歌が浮上するという見解は、近年著者がたびたび主張する要点だ。山田美妙、左川ちかの翻訳詩に日本語の散文詩の始まりを見る意見やモダニズムの捉え方なども、現在の詩に直結する重要な観点。これまでの研究と思索のすべてが注ぎこまれている。新たな〈発生〉をうながす視点を、惜しみなく語る本書は、日本文学の宝箱だ。
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 青土社・4536円/ふじい・さだかず 42年生まれ。詩人、国文学者。東京学芸大、東京大、立正大の教授を歴任。『源氏物語論』『物語の起源』、詩集に『ことばのつえ、ことばのつえ』『春楡(はるにれ)の木』など。

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