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教皇フランシスコ キリストとともに燃えて―偉大なる改革者の人と思想 [著]オースティン・アイヴァリー

[評者]柄谷行人(哲学者)

[掲載]2016年05月01日

[ジャンル]人文

表紙画像

■世界に「希望」を与える貧者の友

 英BBCニュースを見ていたら、ローマカトリック教会教皇フランシスコは、他宗派はむろん、他宗教の信者、さらに無神論者にも人気があるという。彼が類例のない教皇であることは、つぎの事実からもいえる。彼はアメリカ大陸から出た最初の教皇であり、イエズス会から出た最初の教皇であり、また、フランシスコを名乗った最初の教皇である。そして、この三つの点は密接につながっている。
 第一に、中南米のカトリック信者は、北米に移住した者もふくめると、世界中の信者の半数を超える。だから、この地域からこれまで教皇が出なかったほうがおかしいぐらいだ。ただ、そのことは、第二の点に原因がある。イエズス会は中南米において「解放の神学」を生み出した。また、それは過激な政治運動をもたらした。フランシスコはそれに対して批判的であったものの、もともとアルゼンチンで左翼のペロン派を支援していたし、その後もつねに「貧者」の側に立って行動していた。彼が教皇となって、貧者の友、アッシジのフランシスコにちなむ名を選んだことは至極当然である。
 このような中南米に固有の状況は、それ以外の地域のカトリックにとって理解しがたい、むしろ許しがたいものであった。だから、彼のような人物が教皇となったことは空前の出来事である。彼は中南米だけでなく、新自由主義の下に苦しむ世界中の人々にとって「希望」を与える人となった。しかし、そのことこそ、現状がいかに絶望的なものであるかを物語る。
 本書は、いかにしてフランシスコのような人物が出現したかを、複雑な中南米の政治・宗教史から説明しているが、数多いエピソードの中で、私にとって最も印象深かったのは、彼が若い時期からアルゼンチンの世界的作家ボルヘス(まったく非宗教的であった)と親密であったということである。
    ◇
 Austen Ivereigh 英国のジャーナリスト。カトリック評論家としてBBCなどメディアで活躍している。

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