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気まぐれコンセプト 完全版 [著]ホイチョイ・プロダクションズ

[評者]コミック

[掲載]2016年05月01日

表紙画像

■変わらぬ欲望と時代性で35年

 懐かしい。連載開始は1981年、今も続いている名物4コマ漫画の集大成。
 1980年代といえば日本経済はまだ右肩上がりで、とくに後半はバブル華やかなりしころである。そんな中、ひときわ浮ついた広告業界(ギョーカイ)の、軽薄で下品で野蛮で、だけど笑っちゃう内輪ネタにもとづいて、一応パロディー、一部ノンフィクションの、不思議な世界が繰り広げられる。
 この分厚い「完全版」は3冊目の単行本だが、連載開始以来の35年間にわたり、すべての年から選(え)りすぐりの代表作(?)が並ぶ。いつになってもほとんど中身が変わっていないのに驚く。性欲、物欲、おべんちゃらに、セコイごまかし。そして今ならパワハラ・セクハラ間違いなしの話ばかり。
 読んでいて、だんだん腹が立ってくる。バブル崩壊後の「失われた20年」を経て、日本はグローバル化に乗り遅れ、国内の経済格差は拡大する一方だ。課題満載、閉塞(へいそく)感充満なのに、相も変わらず上っ面を取り上げてバブルを懐かしむばかり。これでは既得権益でがんじがらめになって時代に適応できない日本社会の姿そのものじゃないか。
 だけどもうちょっと読み進んでいくと、様子が変わってくる。2010年ごろからは話題が今日的になり、作品の雰囲気もずいぶんと柔らかくなるのだ。時代の変化に合わせるべく、必死にもがいているかのようだ。なんだか、健気(けなげ)な印象すら漂ってくる。
 考えてみれば、性欲も物欲も権力者の目を盗むことも、別にホイチョイの専売特許ではない。古来変わらぬ、人類の普遍的特徴だ。ひょっとすると『気まコン』は、人間の普遍性と時代の変化の両方をバランス良く巧みに取り入れていて、だからこそ35年間も続いているのかもしれない。
 しかしこの二つ、古典として残る作品が兼ね備える条件ではないか。だとすると、ホイチョイは現代の夏目漱石なのか。いやまさか、そんな……。
    ◇
 雑誌や映画の企画編集・制作を手掛ける。単行本『東京いい店やれる店』、映画『私をスキーに連れてって』など。

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