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満洲電信電話株式会社―そのメディア史的研究 [著]白戸健一郎

[評者]武田徹(評論家・ジャーナリスト)

[掲載]2016年05月01日

[ジャンル]歴史

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■多文化「共生」現代に通じる視点

 最近、「満洲国」関係の新刊が目立つ。それらの共通点は「先取性」を見る視点だ。たとえば満洲国の計画経済的手法は戦後日本の経済政策を先取りしていたという具合に。
 本書が研究対象にする「満洲電電」は通信とラジオ放送を担う民間企業だが、戦後日本の電電公社民営化や民間放送を先取りする構図が窺(うかが)える。
 こうした先取性について満洲国が日本の実質的な植民地で先駆的な手法を自在に実験できたからと説明することがあるが、著者の考えは異なる。1930年代の国際情勢の中で独立国家としての「体面」を守る必要が満洲国にはあり、それが公共的性格の強いメディア事業の運営主体として日本直系の政府組織でなく、民間企業が選ばれた理由だったという。
 満洲電電は事業内容でも現実への適応を迫られている。国内最大人口の満漢系住民は日本語を解さず、ラジオ受信機の普及率も低い。ソ連、中国と国境を接し、思想戦の最前線にあった満洲国で放送を通じて国民の凝集力を強めるためにともかく満漢系住民に聴いて貰(もら)う「普及第一主義」が採用された。その結果、日本内地の番組を中継した「第一放送」とは別に中国劇など娯楽中心の満洲国独自制作番組を流す「第二放送」が必要とされた。
 しかし現実志向の満洲電電が、それゆえに先取性を持ち得た逆説がある。多民族を意識しながらの模索は「統合」と「制御」を目指す大東亜共栄圏構想の文化政策とは異質の、「接続」と多文化「共生」を志向する大東亜放送圏構想を生み出すに至った。
 こうした満洲国のメディア政策はグローバル化が進み、国境を越えた文化接触が当然となった現代のメディアについて考える格好の素材になると著者は書く。ロマンチックに美化されて語られることもある満洲国だが、丁寧な実証を踏まえた本書の論証はその実力を的確に伝えている。
    ◇
 しらと・けんいちろう 81年生まれ。筑波大学助教。専門はメディア史など。『「知覧」の誕生』(共著)など。

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