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支配する人道主義―植民地統治から平和構築まで [著]五十嵐元道

[評者]武田徹(評論家・ジャーナリスト)

[掲載]2016年05月15日

[ジャンル]社会

表紙画像

■「救う」側に潜む危険な暴力性

 人道主義とは尊いもの。多くが信じて疑わない観念の図式を本書は敢(あ)えて批評的検証の俎上(そじょう)に載せる。
 注目されるのはトラスティーシップという概念だ。それは非文明圏の混乱や貧困に心を痛め、そうした「病理」からの救済を文明国の義務とみなす人道主義的な考え方として英国で使われ始め、植民地支配を正当化する論理となってゆく。
 実は第2次大戦後の世界も同じ轍(てつ)を踏んでないか。著者は依然としてトラスティーシップの考え方が支配的な国連の信託統治や開発援助、紛争地の国際管理などに検証を広げてゆく。
 人道主義を具体化する「善なるトラスティーシップ」と人道主義を濫用(らんよう)し、介入する「悪なるトラスティーシップ」がある——、コレステロールの善玉悪玉のように二分する立場を著者は採用しない。どんなトラスティーシップも統治する側とされる側を非対称的に隔てる。そこに抑圧を導く権力構造が作られる危険が常にあると考える。
 その指摘の正しさを多くの事例が示す。本書が言及する以外でも、たとえば評者は満州国やハンセン病医療史を調べた経験があるが、満州国建国に際して日本人がアジアの人々の幸福を実現する後見人になると考えたのは、まさにアジア版トラスティーシップだったし、ハンセン病療養所も患者救済を謳(うた)って開設された。そのいずれもが支配と抑圧に帰結したのは、救う側に立とうとする人道主義に潜む暴力性が現れたケースだったといえよう。
 とはいえ丁寧な実証を経て著者はなお人道主義を全否定はしない。他者の痛みを感じる力は誰もが備えるべきもの。ただ痛みへの共感に始まる人道的実践が他者の痛みを助長する逆説に陥っていないか吟味し、必要あれば是正せよと書く。
 人道主義の問題にゴルディアスの結び目を解くような鮮やかな解決法はありえない。思慮と漸進的改革による現実的な対応を求める著者の誠実さが印象的だ。
    ◇
 いがらし・もとみち 84年生まれ。日本学術振興会特別研究員。共著書に『EUの規制力』など。

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