書評・最新書評

中央銀行が終わる日―ビットコインと通貨の未来 [著]岩村充

[評者]加藤出

[掲載]2016年05月15日

[ジャンル]経済 社会

表紙画像

■「将来の豊かさ」前借りには限界

 世界の金融市場参加者の間で、先進国の中央銀行が近年実施してきた大規模な金融緩和策への失望が急速に広がっている。景気刺激効果の限界が露(あらわ)になってきたためだ。
 インターネット空間には中銀が全く関与しない仮想通貨、ビットコインが登場した。中銀は自国において独占的な通貨発行権を有しているだけに、これも新たな脅威といえる。
 この「二つのドラマ」は、「やがて影響し合い絡み合いながら進行し始める」と本書では考察されている。著者は、日銀で電子マネーや暗号を研究していた経験ももつ経済学者であり、このテーマを論ずるには正に適役といえる。
 読者の関心は、従来の通貨が「ビットコインたちと華々しく競争して負ける」可能性はあるのか?という点に向かうだろう。著者は、そこまでの事態は起きないと推察している。ビットコインは膨大な電力を必要とするといった設計上の問題を抱えているからだ。
 ただし、ビットコインに使われている技術を利用すれば、「デジタル銀行券」を中銀が発行することができるとの興味深い提案がなされている。
 本書は、中銀の景気刺激策への過度な期待は危険だと警告している。金利を低下させる効果とは、将来の需要を手前に持ってくること、つまり「将来の豊かさ」の前借りである。人口減少下の日本では、その前借りに限りがあるからだ。
 それに目を向けず日銀が大胆な緩和策に邁進(まいしん)すると、「突然の物価のジャンプアップが来て、その後にまたしぶといデフレが戻ってくる」恐れがある。それにより老後の蓄えが減った人は、日銀に怒りを抱き得る。
 中銀が「物価や景気を操ることをいつまでも夢見ていれば、本当に『中央銀行が終わる日』が来てしまう」と著者は懸念している。
 重要なのは日本経済の地力(潜在成長率)を引き上げるための構造改革であることが痛感させられる。
    ◇
 いわむら・みつる 50年生まれ。早稲田大学大学院(ビジネススクール)教授。著書に『貨幣進化論』など。

関連記事

ページトップへ戻る