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地域アート―美学/制度/日本 [編著]藤田直哉

[評者]五十嵐太郎(建築批評家・東北大学教授)

[掲載]2016年05月22日

[ジャンル]アート・ファッション・芸能

表紙画像

■「前衛のゾンビたち」の功罪問う

 現在、日本では地域名を冠した芸術祭が増え、かつての地方博ブームのように乱立している。本書はそうした現状を批判的に考察する。
 まず藤田直哉は巻頭の論考で、現代アートが地域活性化や経済効果の道具として使われ、十分にクオリティーが審判されないままに“素朴”なプロジェクト型の作品が増えていることから、芸術の地殻変動を指摘する。その特徴は、自己完結的なモノ(絵画や彫刻)をつくるのではなく、美術館を飛び出し、制作のプロセスや住民参加を重視し、コミュニケーションや関係性を主軸に据えていることだ。1960年代には叛逆(はんぎゃく)の精神だった表現の手法が税金を使う地域アートに回収される様態を、藤田は「前衛のゾンビたち」と呼び、衰退していく地域の鎮痛剤になっているという。2014年に発表されたこの論考は大きな反響を呼び、本書はそれを踏まえて刊行された。
 実は藤田はSF・文芸批評家であり、門外漢ゆえに、しがらみもなく問題の核心を突いたわけだ。本書はアーティストやキュレーターとの五つの対話、研究者による3本の寄稿から構成され、専門家から重要な見解を引き出す。テーマの設定が明快なので、雑多な印象は受けない。しばしば参照されるニコラ・ブリオーの論文「関係性の美学」をめぐる議論、日本という文脈、制度の悪用、評価の難しさ、自己検閲、社会学の実験との比較、アート界の状況と今後などの課題が巧みに配置されている。
 東京オリンピックを踏まえた地方の文化芸術振興策により、地域アートはまだ延命されるだろう。が、地方博の二の舞いとならないよう警戒すべきだ。本書はこれまでと異なる抵抗のあり方や新しい批評言語の可能性も感じさせ、未来に開かれている。これは建築における“ハコモノからコミュニティー・デザインへ”の潮流とも重ねて議論できる興味深いテーマだ。
    ◇
 ふじた・なおや 83年生まれ、文芸評論家。著書に『虚構内存在 筒井康隆と〈新しい《生》の次元〉』。


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