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時間かせぎの資本主義―いつまで危機を先送りできるか [著]ヴォルフガング・シュトレーク

[評者]諸富徹(京都大学教授・経済学)

[掲載]2016年05月22日

[ジャンル]経済

表紙画像

■脅かされる国民福祉と民主主義

 資本主義経済の運営がなぜうまく行かないのか。成長率は回復せず、国家債務は増大の一途をたどるばかりだ。各国の中央銀行は競って量的緩和策に乗り出すが、問題の根本治癒に至らない。時間を買って危機を先送りしているだけだ、と著者シュトレークは断じる。ドイツ・フランクフルト学派に連なる彼は、あまたの経済書とは異なる視点で現代資本主義に切り込み、その病巣をえぐり出す。
 著者が注目するのは、債務国家化した先進国財政だ。1980年代以降のインフレ鎮静で、知らぬ間に債務を帳消しにできなくなった国家は、増大する社会保障経費を賄うため、「目にみえる増税」に訴えるほかなくなる。だが、企業や国民の抵抗の前にそれを果たせず、国債依存度を高めていく。しかも公債は、低成長時代に安全な投資機会を提供する点で、投資家にとって好都合ですらある。
 だがギリシャの債務問題に端を発した欧州ソブリン危機が示したように、国家がデフォルトを起こし、投資した資金を回収できない恐れもある。投資家の関心はそこで、いかなる危機でも国民の抵抗を押しのけて年金や医療を削減し、借金返済を確実にさせることに向けられる。「われわれが生き残るには、これしかない」と、国民に圧力をかけて押し通してくれる政府だ。債務返済への国際圧力がいかに凄(すさ)まじいかは、ギリシャのチプラス政権のたどった運命をみれば明らかだ。
 著者は、国民福祉より金融資本の利害が貫徹される欧州の現状を、市場による民主主義への深刻な挑戦と受け止める。各国は、共通通貨ユーロの下で、為替レートによる経済の調整権限を奪われた。富裕国が貧困国を助ける欧州次元の財政調整が夢物語である以上、ユーロを終焉(しゅうえん)させ各国の通貨主権を回復させることが、民主主義に基づく経済運営を回復する方途だと著者は結論づける。「欧州統合」はもはや、かつての輝きを失ってしまったのだろうか。
    ◇
 Wolfgang Streeck 46年ドイツ生まれ。マックス・プランク研究所(社会研究)所長やケルン大学教授を歴任。


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