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ヒーロー! [著]白岩玄

[評者]斎藤美奈子(文芸評論家)

[掲載]2016年05月22日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■目を奪われる、いじめ撲滅作戦

 デビュー作『野ブタ。をプロデュース』で読者をあっといわせた白岩玄。それから12年がたち作者も大人になったかな、と思ったらそうでもなかった(あ、これ褒め言葉です)。
 『野ブタ。』はいじめられっ子(ドラマでは女子だったけど原作では男子)の改造によって、いじめの解決を図る物語だった。
 『ヒーロー!』は、いじめる側にもいじめられる側にもコンタクトせず、問題の解決に向けて走り出す高校生たちの物語である。
 語り手の「私」は隣のクラスの新島英雄から相談をもちかけられる。〈なぁ、一緒に学校の平和を守ろうぜ。おまえが考えて、俺が動く。それだけでいじめをなくせるんだぞ?〉
 彼の提案はこういうことだった。いじめは特定の誰かに「負の関心」が集まることで起こる現象である。それならば、みんなの関心を別の方向に向かわせればいい。だから、いっしょにショーをやろう!
 演劇部での演出経験が見込まれたらしい。かくて大仏の顔のマスクをかぶった英雄が校庭でバレエを踊るという異色のいじめ撲滅作戦がはじまるのだ。
 深刻な問題をどこまでも前向きに描いた秀作。「そんなアホな」と突っ込みながら読みはじめ、途中からは「いや、もしかたらありかも」と思わせる。学校にゆるキャラみたいなやつが毎日出てきて嵐の曲に合わせて踊りだしたら、そりゃあ目を奪われるよ。
 〈大人たちがするように、いじめの問題に直接手を下せば、人間関係にゆがみが生じて何かしらの遺恨が残ってしまう。悪い奴(やつ)を叩(たた)けばそれで済むという問題ではないんです〉と語る英雄は大マジメなのだ。
 いじめには限らない。加害者と被害者の問題として処理されがちな案件も、環境に刺激を与えることで変化する可能性がある。自称「ひねくれ文化系女子」の「私」にも変化が訪れる。中高生に絶対おすすめ。学校の先生方にもね。
    ◇
 しらいわ・げん 83年生まれ。04年『野ブタ。をプロデュース』で第41回文芸賞を受賞し、デビュー。


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