書評・最新書評

アフガン・対テロ戦争の研究 タリバンはなぜ復活したのか [著]多谷千香子

[評者]杉田敦(政治学者・法政大学教授)

[掲載]2016年05月29日

[ジャンル]ノンフィクション・評伝 国際

表紙画像

■米国が見た「大それた夢」の失敗

 9・11テロへの反撃としての、アフガニスタンへのアメリカの「対テロ戦争」は、世界に何をもたらしたか。アメリカの当初の目論見(もくろみ)に反して、アフガニスタンは安定化せず、隣国パキスタンまで破綻(はたん)国家寸前の状態に陥り、テロリズム全般のリスクもかえって高まったのではないか。
 検事出身で、旧ユーゴ戦犯法廷の判事も務めた著者は、英語文献と現地調査に基づいて、こうした失敗の原因を追究する。
 テロの黒幕オサマ・ビンラディンを保護したというのが、アフガン攻撃の理由であったが、著者によれば、テロ以前からオサマは「招かれざる客」であり、彼を引き渡したいという意図はアフガニスタン側から何度も示されていた。しかし、アメリカはシグナルを見落とす。
 タリバンを含むパシュトゥン民族の、「敵であっても客人を匿(かくま)うという伝統的な部族の慣習法」など、「中世的なイスラム社会に対する理解」をアメリカは欠いていた。
 さらに、パキスタンは、表ではアメリカに調子を合わせつつ、裏では、宿敵インドとの対抗上、タリバンを支援するという「ダブルゲーム」を試みたが、アメリカはこれに気付くのが遅れた。
 欧米では諸悪の根源とされるタリバンも、現地では他の勢力よりマシと評価され、女性の待遇も含めて、彼らのやり方は「アフガンの農村ではごく普通のことだった」。「アフガン一般民衆にとって民主主義は聞いたこともない」ほど遠いことをアメリカは考慮しなかった。
 アフガン民主化といった「大それた夢」をもたず、オサマらだけに「的を絞る作戦に特化していればよかった」というのが著者の結論である。
 さまざまな登場人物が、何を考え、何を求めたかを、それぞれの視点に立って復元しようとする著者の姿勢が、圧倒的なリアリティーを本書に与えている。
    ◇
 岩波書店・6480円/たや・ちかこ 46年生まれ。旧ユーゴ戦犯法廷判事、最高検察庁検事などを経て法政大学教授。

関連記事

ページトップへ戻る