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3.11 震災は日本を変えたのか [著]リチャード・J・サミュエルズ

[評者]佐倉統(東京大学大学院情報学環長・科学技術社会論)

[掲載]2016年05月29日

[ジャンル]社会 ノンフィクション・評伝

表紙画像

■「現状維持」で良いはずがない

 3・11は日本をほとんど変えなかった——これが著者の結論である。
 希代の日本ウォッチャーが、日英両語の膨大な資料を渉猟し、国防、エネルギー政策、地方自治の三領域について、透徹した分析をおこなった。その結論は、説得力がある。
 変化の兆しはあった。自衛隊への国民からの好感度は増し、トモダチ作戦によって日米関係も好転した。原発反対運動も高まりを見せた。しかし、3・11は「形勢を一変させる『ゲーム・チェンジャー』にはならず、日本の政体を構造的に変えることもなかった」。この見立ては、原著出版(2013年)からさらに3年経過した今、一段と説得力を持っている。
 本書で唯一、前向きの変化がみられたとされているのは地方自治だ。自治体同士の横のつながり、自主的で自発的な連携の盛り上がりは、すべてを中央が差配していた日本の統治のあり方を変えるのではないか。著者はここに日本の未来の曙光(しょこう)を見ているように思える。だが、その変化の象徴としてスポットライトが当てられている河村たかしや橋下徹は、今となっては失速した感がぬぐえない。
 なぜこのような状況になったのかについては、著者はあまり考察していないが、いくつかのヒントがちりばめられている。たとえば、日本の硬直した政治体制が大いなる回復力を見せたことや、震災前の日本の原発政策が強大なリーダーシップによって推進されていたことである。つまり、震災後の言説においてキーワードであった「リーダーシップ」や「変革」などは、方向性が違っていたのかもしれないと思わされる。
 それにしても、第1章でまとめられている震災後の対応の右往左往は、読むのが辛(つら)い。既知の事柄ばかりではあるが、端的に濃縮されて提示されると、そのあまりの不甲斐(ふがい)なさが際立つ。これで「現状維持」で良いはずがない。改めて、そう思う。
    ◇
 プレシ南日子、廣内かおり、藤井良江訳、英治出版・3024円/Richard J.Samuels マサチューセッツ工科大学教授。同大国際研究センター所長。専門は日本の政治など。

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