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核の世紀―日本原子力開発史 [編]小路田泰直、岡田知弘、住友陽文、田中希生

[評者]武田徹(評論家・ジャーナリスト)

[掲載]2016年06月05日

[ジャンル]科学・生物 社会

表紙画像

■歴史を踏まえ、建設的議論へ

 「三・一一の後、多くの政治勢力が『脱原発』を叫び、主張のラディカルさを競った。しかし結局は原発再稼動を使命として登場した安倍内閣に勝つことができなかった」
 厳しいが、的確な現状認識が巻頭で示される。なぜその帰結に至ったか。戦後日本で原子力はただ潤沢なエネルギー源として期待されただけでなく、国家の安全保障を支える役割も果たしてきた。そうした歴史的事実を無視して能天気に唱えられた「脱原発」が夢物語に終わったのは必然だったと編者は指摘する。
 こうした厳しい指摘は敗北宣言ではなく、雪辱戦に臨む覚悟の表れだ。歴史的視点の欠落を今度こそ埋めるべく、歴史学や思想史、社会史の研究者の論考が本書には収められる。
 中でも布川弘「『核の傘』と核武装論」は印象的だ。55年体制成立後の日本は原子力の平和利用を挙国一致で進める一方で、核武装を常に政策オプションとして持ち続けた。特に佐藤栄作は核武装をもって中国の核保有に対抗する可能性をちらつかせて米国から「核の傘」論を引き出すことに成功したという。原子力が日本の安全保障を支えたとされる所以(ゆえん)だ。
 三・一一後、原子力については自然科学領域で、それも被曝(ひばく)の健康被害面ばかりが言及される偏りが確かにあったと思う。脱原発の実現を焦ってか、放射線の危険性を過剰に見積もる怪しげな学説まで持ち出され始めると大衆が離反してゆくのもまた必然だった。
 そんな状況の中で、遅ればせながらアインシュタインの相対性理論提唱後の「核の世紀」を人文社会科学の対象として検討しようとした試みは意義深い。「核ある世界」がいかに成立したか。原子力技術は国内外でいかになくてはならぬものになったか。それを紐解(ひもと)かずに「核なき世界」実現を目指そうとしても建設的な議論は望めまい。本書を緒として本格的な研究が続いてゆくことに期待したい。
    ◇
 奈良女子大学副学長の小路田氏を中心に、歴史学や社会学などを専門とする計15人の研究成果をまとめた。

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