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「病は気から」を科学する [著]ジョー・マーチャント

[評者]横尾忠則(美術家)

[掲載]2016年06月05日

[ジャンル]科学・生物 医学・福祉

表紙画像

■心と体はどこまで影響し合うか

 病気とは患者の主観ではない。医者が認めなければ病気とは言わない。心は二の次ということだ。では心に治癒力はないのか?
 心は万能ではないという科学主流の考えに疑問を抱いた先端科学専門ジャーナリストの著者は、主流に逆らって心が体に及ぼす影響を研究している科学者を探し、世界中を巡る。
 結果、心は万能ではないことを知らされるが、本当に見逃しはないのかと懐疑者たちに再考を促し、さまざまな事例を紹介する。偽薬や偽手術の効き目、高額な手術と知った途端、治ったと信じる者……。まさに「病は気から」だ。
 病気が治ると単純に信じるその想(おも)いに、すでに治癒力が作用するのだが、ここに疑問が湧く。信じる心が薬と同じ効果を生むとしたら、そもそもなぜ薬が必要か? つまり薬が投与されたと知らなければ効果はないってことだ。
 1994年のロス大地震の犠牲者の多くは、建物の崩壊の下敷きになっただけではなく、「このまま死ぬかもしれない」という恐怖によって死んだ者も多数いたという。脅威を感じた瞬間にアドレナリンが沸き上がり、心臓が停止。危険の知覚で死に至るというのだ。
 心が健康に影響を及ぼすといっても、代替医療を選んで死亡した人もいる。結局、自分の脳と体を信じるしかない。「物質的身体」の健康が、逆に心の状態に影響を与える。
 デカルトが精神と肉体を分離させて四百年。今も論理的、合理的存在としての人間に対する信頼は死滅したわけではないが、体と心は完璧に統合していると著者は主張する。
 僕の知るある著名な物故作家の親類の人は、末期がんを宣告された。どうせ死ぬなら四国八十八カ所巡礼の旅へでも、と心を空にして死出の旅に立った。野垂れ死にもせず無事に帰還。検査したらがんは跡形もなかったという。心を空しくした作用が体に奇跡を起こしたのだろうか。
    ◇
 Jo Marchant 英ロンドン在住の科学ジャーナリスト。『ツタンカーメン 死後の奇妙な物語』など。

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