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ガルブレイス―アメリカ資本主義との格闘 [著]伊東光晴

[評者]諸富徹(京都大学教授・経済学)

[掲載]2016年06月12日

[ジャンル]経済

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■現実に挑んだ、本質射抜く言葉

 名著『ケインズ』を擁する著者が、20世紀アメリカを代表する経済学者ガルブレイスに取り組み、その思想がもつ現代的意義を見事に浮かび上がらせた。
 ガルブレイスは、アメリカ資本主義の批判的分析で次々にベストセラーを放ち、政策アドバイザーとして、ケネディ政権をはじめとする歴代民主党政権にも深く関与した。現代経済の構造をつかむ鮮やかな手腕で彼の右に出る者はなく、返す刀で主流派経済学の理論的前提を鋭く批判した。
 彼は、決して高度な数学や統計分析を用いようとせず、ひたすら散文で勝負した。当然のことながら、経済学者からは分析手法で批判を浴び、保守派からもそのリベラルな思想が攻撃の的となった。
 しかし重要なのは、彼が独自の経済思想を確立しえた点だ。彼の名が、経済学史に末永く刻まれることになるのは、間違いない。時代の空気を捉えることに長(た)けた人は、本質を射抜く言葉を紡ぎだす。彼は、「通念」「拮抗(きっこう)力」「依存効果」「テクノストラクチャー」「計画化体制」など、20世紀後半のアメリカ資本主義を特徴づけるいくつもの流行語を創り出した。
 市場は、経済学の想定と異なって、一握りの大企業が圧倒的な支配力を行使している。そのパワーに対抗するには、労働組合に団結を促し、「拮抗力」を形成する必要がある。消費者は、自分の好きなものを購入しているようで実は、その欲求は広告・マーケティングで操作され、私たちは、それらに依存して消費させられている。これらはいずれも、経済学の想定へのアンチテーゼだ。
 アメリカ経済がその後、大きく変化したため、ガルブレイスの議論はもはや古臭くなったようにみえる。だが著者も指摘するように、経済学を「理論のための理論」から「現実との格闘」に引き戻そうとした彼の挑戦は、多くの人々の記憶に残り、経済学の共有資産となっていくに違いない。
    ◇
 いとう・みつはる 27年生まれ。理論経済学、経済政策。『アベノミクス批判』『原子力発電の政治経済学』など。

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