ウナギと人間 [著]ジェイムズ・プロセック

[評者]円城塔  (作家)  [掲載]2016年06月19日   [ジャンル]科学・生物 

■日本人の知らない多彩な横顔

 世界で一番ウナギを食べているのは日本人である。
 だから、ウナギのことを一番知っているのも日本人だとつい考えてしまいたくなる。
 世界ではじめてウナギの産卵場所を特定したのも日本の研究者だし、季節になると、みんな天然ウナギの激減を心配している。世界一のウナギ好きな国であっても不思議はない。
 しかし、好きだという気持ちと、相手を理解できているかどうかはまた別の話でもある。
 ウナギのおいしい食べ方を知っているのは日本人だけ、と思いがちだが、本書にでてくる各国の料理をみていると、どうもそういうことはなさそうだ。
 ウナギが川を下ってはるか海のかなたで卵を産むことは周知のとおり。
 でも、そのウナギが何千匹という巨大な群れをなして川を遡(さかのぼ)ってくる地域があることはあまり知られていない。しかも、その移動はほんの数日の間に限られるという。
 重箱や丼にのったウナギを眺めて、このウナギは何歳だったのか、どこまで大きくなるものなのかと考えることもまずない。水路でウナギをみかけたことがある人はいても、家で飼ったことがあるという人は少ないのではないか。
 著者がニュージーランドで出会ったウナギは、ふくらはぎほどの太さがあり、頭部だけで十数センチ。池の中に飼われており、ステーキ肉にさそわれて、五、六匹が顔を出す。
 漁に挑戦した著者がつかまえた体重五キロをこえるウナギは「だいたい六〇歳」だと教えられる。「私は今まで、自分より年寄りのものを殺したことがない」と著者は記す。
 世界には、ウナギを自分たちの祖先としたり、土地の守護者とみなす人々がおり、畏敬(いけい)の念を抱いている。
 そうした人々にとって、ウナギに関する知識は個々人のプライベートなものであり、むやみに人に話すことがらではない。共に生きる相手であって、生まれ故郷や死に場所を詮索(せんさく)するべき対象ではない。
 世界中をとびまわり、ウナギと実地につきあっていく著者は、日本人の知らないウナギの姿を次々と描きだしていく。仲間としてのウナギと、食べ物としてのウナギ、どちらかの見方ではなく、どうしても相反してしまう考えを事実として確認していこうとする。
 アメリカ人である著者の視点は時に、オセアニアに対する幻想色を帯びてしまうが、これは異文化に対するときに常に起こることである。なじんだ文化にとじこもらずに、外からの視点を導入するきっかけとしてもウナギはとても有用である。
    ◇
 James Prosek 75年米国生まれ。自然とのかかわりをテーマにした著書を出版するかたわら、美術作品を通して自然保護へのメッセージを発信するアーティストとしても知られる。

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