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謎のアジア納豆―そして帰ってきた〈日本納豆〉 [著]高野秀行

[評者]末國善己(文芸評論家)

[掲載]2016年06月26日

[ジャンル]ノンフィクション・評伝

表紙画像

■ソウルフードの知られざる実態

 納豆は日本の伝統食で、おいしさが理解できるのも日本人だけ、と考えている人も多いように思える。
 だが世界の辺境を取材し良質なノンフィクションを発表している著者は、実際にアジアの山岳地帯を訪ね、納豆をソウルフードにしている民族が少なくないことを明らかにしたのだ。
 納豆をペースト状にしてのばすシャン族のせんべい納豆、日本と似たカチン族の糸引き納豆、長期熟成させるナガ族の古納豆など、アジアに豊潤な納豆文化があることに驚かされる。
 藁(わら)を使う日本とは異なり、アジア納豆は、大豆を木の葉やシダで発酵させるものが多い。そこで著者は、同じ製法で納豆ができるのかを実験し、成功した。納豆作りには藁が必要というのも、日本人の思い込みに過ぎないのである。
 しかもアジア納豆は料理の調味料としても使われ、ほかの食材と煮たり、炒めたりすると、さらにおいしさが増すようなのだ。
 製法も調理法も多彩なアジア納豆に触れると、納豆に付属のタレをかけ、それをご飯に乗せて食べるのが主流の日本が、実は「納豆後進国かも」という著者の声にも納得できる。
 アジアの山岳地帯は魚や塩の入手が難しく、貴重なたんぱく源、調味料として納豆が発達したという。納豆を食べる民族は、肥沃(ひよく)な平野部を支配するマジョリティーから迫害を受けてきたとの指摘も興味深い。
 アジア納豆に刺激された著者は、日本納豆についても掘り下げていく。すると納豆をごはんにかけるのは江戸後期以降の習慣と見られ、どこが納豆の発祥地かも分かっていない事実が判明。著者の調査で、日本納豆の知られざる実態が浮かび上がるところは、目から鱗(うろこ)が落ちるのではないか。
 ネパールから日本に至る納豆食民族の歴史と文化を追い、新たな文明論までを打ち立てた本書は、納豆は日本食という固定観念を打ち破り、納豆の奥深さを教えてくれるのである。
    ◇
 たかの・ひでゆき 66年生まれ。『謎の独立国家ソマリランド』『恋するソマリア』など。

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