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科学の発見 [著]スティーヴン・ワインバーグ 科学の経済学 [著]ポーラ・ステファン 科学の曲がり角 [著]フィン・オーセルー

[評者]佐倉統(東京大学大学院情報学環長・科学技術社会論)

[掲載]2016年07月03日

[ジャンル]科学・生物

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■「科学とは何か?」への挑戦

 科学とは何か? それはどのように発展し、その知識にはどのような特徴があるのか?
 ノーベル物理学賞を受賞したワインバーグは、科学知識そのものに注目し、いわば科学を「内側」から眺めてその軌跡をたどる。古代ギリシャからイスラム世界を経て、ヨーロッパで花開いた科学的思考と方法の特徴は、仮説を立て、それを実際に検証し、その過程を数理的な手法で記述することだと彼は言う。科学革命以前の知的活動はこれらの特徴を満たしておらず、科学とは呼べないと一刀両断に切り捨てる。そして、ガリレオやニュートンによる近代西洋科学の勝利を高らかに謳(うた)い上げる。
 現代科学の生産する知識が、客観的・普遍的で汎用(はんよう)性が高いのはワインバーグの言う通りだ。しかし、科学の進歩の原動力を真理を発見したときの喜びにのみ帰しているのは、説得力に欠けよう。どのような知識に喜びを感じるかは、人により時代によりさまざまだからだ。
 ワインバーグとは対照的に、科学の営みを「外側」から眺めたのが、ステファンの本である。ここでは科学的知識の性質には注目せず、その知識生産活動の特徴が経済学的に分析される。教科書的な内容と文体だが、科学知識の財としての特徴や、研究費助成の効率的なあり方、基礎研究が経済成長に寄与する傾向など、興味深い論点が挙げられている。訳者解説では日本の科学活動の現状が海外との比較で分析されており、その衰退ぶりが歴然と示されている。
 さて、科学を「内側」から見るのと「外側」から分析するのとは、相反することではない。オーセルーは、両者を橋渡しすることで、科学活動をより深く知ろうとした。対象は、デンマークの偉大な物理学者ニールス・ボーアが1930年代から40年代にかけて、みずからの研究所をどのように経営したのか。手堅い科学史的作業が明らかにしたのは、研究資金を拠出する財団の方針転換と、ユダヤ人迫害によるドイツ人研究者の国外脱出という科学以外の出来事が、ボーアの知的関心に影響して研究所の運営方針の転換に至ったということだ。
 つまり、科学は内側の論理だけで進むのでもなく、外側の動向だけで形成されるのでもない。「内」と「外」の絶えざる相互作用が科学を形作っていく。
 とはいえ、ひとつの研究所のみに注目するという手法では、ワインバーグやステファンのようには科学全体を大づかみにできない。オーセルーの主張がどの程度普遍性を持っているかも、さらなる検証が必要だろう。
 科学とは何かという難問へのアプローチは、まだまだ群雄割拠の状態が続きそうだ。
    ◇
 Steven Weinberg 33年生まれ。79年にノーベル物理学賞受賞▽Paula E.Stephan 45年生まれ。全米経済研究所リサーチアソシエイト▽Finn Aaserud ニールス・ボーア・アーカイヴ所長

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