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昆虫の哲学 [著]ジャン=マルク・ドルーアン

[評者]円城塔  (作家)

[掲載]2016年07月03日

[ジャンル]科学・生物

表紙画像

■人間の鏡? 観察するほど不思議

 昆虫についての話題はつきない。たとえばクモは昆虫かどうか、それぞれに意見があったりする。昆虫とは六本足のものであるからクモは違うと知っていてもそうなる。
 本書によれば、歴史的には、カニやエビ、ワニまでも昆虫の仲間とされたことがあった。
 とかく気になる存在である。小さく、そして数が多い。何を考えているのかよくわからない。一見、賢そうには見えなくても、立派な巣をつくったりする。観察すればするほど不思議なところがあらわれてくる。
 ダーウィンは進化論を考えるのに昆虫を参考にした。昆虫の社会を人間の社会の縮図とみなしたり、あるいは理想社会と見た人々もいた。昆虫を観察することは、社会全体を上から見渡す視点をもたらした。
 感情を移入したり投影できる相手であると同時に、冷酷に扱うことのできる相手でもある。二十世紀後半の生物学の発展は、昆虫によって支えられた。遺伝子の研究には昆虫がよく利用されている。
 本書は、歴史を通じて虫がいかに語られてきたかを紹介するエッセー集である。人文、理数という枠にとらわれず話題が自由に展開するのは、昆虫という存在が様々な領域を生みだし、つなぐ役割を持つ生き物だからなのかもしれない。
 犬や猫ほど親しくなれる相手ではないが、木石とは異なり、植物よりも愛想がある。
 昆虫を観察することは、自分の内面を見ることにも似ている。異質な存在には鏡のようなところがあり、こちらの思考や思惑をはねかえしてくる。
 そうした意味で本書は「昆虫の哲学」であると同時に「人間の哲学」でもある。本書に登場する話題は、人間が昆虫について考えたことでもあるが、昆虫がこの世にいたおかげで考えられるようになった事柄でもある。人は昆虫を見て考える。そうして誰かにそれを話したくなる。
    ◇
 Jean−Marc Drouin 48年生まれ。フランス国立自然史博物館教授として研究・教育に携わり、08年に退官。

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