認知資本主義―21世紀のポリティカル・エコノミー [編]山本泰三

[評者]諸富徹(京都大学教授・経済学)  [掲載]2016年07月03日   [ジャンル]経済 

■創造・知・ネットの時代の入門書

 世界経済が混迷を深め、その先行きを見通せない不安からか、資本主義の本質を問う出版が相次ぐ。本書もその一つだ。「認知資本主義」とは耳慣れないが、経済を動かす力が、物質的な資産から非物質的な資産に移り、人間の知識や認知能力が決定的に重要になったことを強調する。
 1980年代以降、経済の情報化、金融化、サービス化が進み、付加価値はますます、モノそれ自体よりも、モノに付随するサービスから生み出されるようになった。先進国ではもはや、無形資産への投資が物的資産への投資を上回っている。IoT(モノのインターネット)は、この傾向をますます促進するだろう。結果として、「製造業のサービス産業化」が進む。
 肉体労働の占める地位は低下し、新しい付加価値を生み出す「非物質的労働」の果たす役割が高まる。これは、創造的・知的な活動、組織的・社会関係的な活動、そして、対人的な情動的活動を含む。いずれも生産者間、あるいは、生産者と消費者間でのコミュニケーションを通じて、非物質的な価値が共同生産される点に特徴がある。
 画一的な工業化社会に適していた教育システムも、大変革を迫られる。富の源泉が「物質的価値」から「非物質的価値」に移ると、後者を生み出す人間的能力の開発が最重要課題となるからだ(「人的資本への投資」)。
 こうした変化は、新しいライフスタイルを生み出すだろうか。大阪市西区の調査に基づいて、デザイン、広告、美容などに携わる「クリエイター」と総称される人々による新しいコミュニティー形成を描いた第7章は、たいへん印象的だ。脱工業化で空いた都心部に入った彼らの自発的なネットワークが、都市のかたちを変える可能性もある。
 本書は、認知資本主義に関する初めての本格的な入門書である。「資本主義の非物質化」とは何か、その行く末に考えを巡らせる上で、欠かせない1冊だ。
    ◇
 やまもと・たいぞう 四天王寺大学非常勤講師。本書は経済学、ゲーム、まちづくりなどに携わる13人が執筆。

諸富徹(京都大学教授・経済学)の他の書評を見る

この記事に関する関連記事

ここに掲載されている記事や書評などの情報は、原則的に初出時のものです。

ページトップへ戻る

ブック・アサヒ・コム サイトマップ