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「自衛隊の闇」書評 組織防衛に重きを置く上司

評者: 市田隆 / 朝⽇新聞掲載:2016年07月10日
自衛隊の闇 護衛艦「たちかぜ」いじめ自殺事件の真実を追って 著者:大島 千佳 出版社:河出書房新社 ジャンル:エッセイ・自伝・ノンフィクション

ISBN: 9784309024646
発売⽇: 2016/04/27
サイズ: 19cm/282p

自衛隊の闇 [著]大島千佳・NNNドキュメント取材班

 海上自衛隊の護衛艦「たちかぜ」の乗組員がいじめを受けて自殺した事件で、遺族が自衛隊などに賠償を求めた裁判は8年間に及んだ。本書は、そのドキュメンタリーを制作したテレビディレクターの取材記録。丹念な取材から自衛隊組織の病理が浮かび上がる。
 遺族勝訴の判決では、いじめによる自殺を否定した海自が、重要な証拠となるいじめの調査文書を隠したことが認定された。隠蔽(いんぺい)の発覚は、現役3等海佐による内部告発がきっかけだ。
 勇気ある行為は海自の自浄能力を示すことになるはずだが、本書で詳細に再現された、3等海佐とのやりとりで告発を責める上司たちの言葉に悪寒を覚えた。「組織の中にいる人間はやっちゃいかんよ」「自分たちに非があるときでも、海上自衛隊の立場を守ることも必要なんだよ」。正義よりも組織防衛に重きを置く上司は自衛隊だけではないと思える。どこの職場にもありうる問題を浮き彫りにしたノンフィクションだ。