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男子問題の時代?―錯綜するジェンダーと教育のポリティクス [著]多賀太

[評者]星野智幸(小説家)

[掲載]2016年07月17日

[ジャンル]教育 人文 社会

表紙画像

■男たちの「生きづらさ」を考える

 「女性専用車は男性差別です」とプラカードを掲げて、女性専用車両に乗り込んでくる男性がまれにいる。なぜ、そんな不快なことをするのだろうか。それで自分の生きづらさが変わるわけでもあるまいに。
 基本的にこの手の暴力行為は、現在の男たちが抱える生きづらさへの恨みや不満から、生まれている。
 本書は、なかなか目を向けられないこの男子問題の現状を、数少ない専門家である著者が、基礎から解説したもの。
 例えば、敗者とみなされるから自分に不利な弱音は口にできない、という縛り。すべてを競争で測る男性原理の一つだが、そうして勝者になれるのは一握りの男にすぎない。それでもその原理にしがみつき続けるのは、競争に参加しているふりを続けて男の範疇(はんちゅう)にとどまる限り、日本社会が用意した男性優遇のごくわずかなおこぼれにあずかれるからだ。だが男性の非正規雇用も拡大している現在、おこぼれにあずかれる男も減少している。今の日本社会は、「ある男性たちが他の男性たちとほとんどの女性たちを支配するシステム」になっているのだ。
 不良債権化しているこの惨めな既得権を持ち続けるか、「男」を降りて楽になるか。男なのに男でないと感じている、この層の男たちは、自分たちが理解されないことに不満を募らせ、どうしてよいかわからず、暴発する。
 歯止めになるのは、子どものうちからの教育だ。本書では、男女平等教育の効果ある実例と、改善すべき限界点も、示されている。特に、部分的な男女別学が有効であるとの現場の声には納得した。
 性差の問題となると、どうしても各人の実感をぶつけ合う感情論になりやすい。本書では、男女平等に違和感を抱く側の言い分までも受け止めて、誰をも断罪せずに客観的な認識を共有できるよう努めている。まずは一読して、この問題自体を知ってほしいと思う。
    ◇
 たが・ふとし 68年生まれ。関西大学文学部教授。著書『男らしさの社会学』、共著『男性の非暴力宣言』など。



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