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赤い刻印 [著]長岡弘樹

[評者]末國善己(文芸評論家)

[掲載]2016年07月17日

[ジャンル]文芸

表紙画像

 巧妙な伏線の推理小説で知られる著者の新作は、持ち味が楽しめる短編集だ。
 中3の菜月は、時効寸前の事件を捜査している刑事の母・啓子から、祖母が生きていると聞かされ会いに行く。「赤い刻印」は、何げない母子の日常が、予期せぬ場所に隠された伏線によって、思わぬ事件に結び付く意外性に驚かされる。
 これは、記憶障害になった女子医大生が、教官の命令で日記を書く「秘薬」、医師に助けられながら、母の介護と弟の世話をする女性を描く「手に手を」も同様で、短編に名作が多い著者らしく切れ味が鋭い。
 小5の息子が自殺した原因を調べるため、父が担任と同級生を人質にして教室に立てこもる「サンクスレター」は特に出色で、周到な伏線も、予想を超える物語の着地点も圧巻である。
 各編の主人公が、複雑な親子関係、子供のいじめ、親の介護など身近な問題に悩んでいるだけに、謎解きを通して浮かび上がる深い人間ドラマが心にしみる。

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