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憲法9条と安保法制―政府の新たな憲法解釈の検証 [著]阪田雅裕

[評者]杉田敦(政治学者・法政大学教授)

[掲載]2016年07月31日

[ジャンル]政治 社会

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■元長官が政府に示す理解の限界

 昨年成立した一連の安保法制については、大半の憲法学者が違憲とし、政府の憲法解釈を支えてきた内閣法制局の歴代長官らも、批判に加わった。定着した政府解釈の変更自体が立憲主義をゆるがすとの議論も強いが、自らも元長官である著者は、解釈変更の妥当な部分と妥当でない部分との腑分(ふわ)けが必要だとする。
 憲法9条2項は武力行使を禁じるが、日本への武力攻撃に自衛の措置をとることまでは禁じていないというのが従来の政府解釈であった。これに対し安倍晋三首相の諮問機関「安保法制懇」は侵略などの国際法上違法なこと以外は、集団的自衛権行使も含めてすべて可能という「芦田修正説」を打ち出したが、首相もさすがに採用しなかった。著者も憲法9条には国際法の制限を超えた法規範性があるとし、この説を否定する。
 そこで問題となりうるのは、集団的自衛権行使のすべてが認められるわけではないとしても、一部は認められるかどうかである。憲法学者や元法制局長官らの多くは認められないとするが、著者の見解は異なる。「国民の命と暮らしを守る」という「従来と同じ意味での自衛のため」であれば、「国際法上は集団的自衛権の行使に当たる武力の行使で」あっても、これまでの「基本的な論理と軌を一にしているといえないわけではない」とする。法案に反対する学者らの「国民安保法制懇」を著者が途中で抜けた背景もこのあたりにありそうである。
 しかし著者が政府側に示す理解もそこまでである。法制が必要な理由、つまり立法事実として政府が近海での米艦防護のような荒唐無稽な事例しか示せなかったこと。「必要最小限度」の実力行使の基準は従来は日本への武力攻撃の排除という明確なものであったが、集団的自衛権の場合には、もはやそうした基準が成り立たないことなどが、指摘される。本書への賛否を含め、憲法と安保法制をめぐる議論を続けたい。
    ◇
 さかた・まさひろ 43年生まれ。66年大蔵省入省。04年8月から06年9月まで内閣法制局長官。弁護士。



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