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18歳からの格差論―日本に本当に必要なもの [著]井手英策/子育て支援が日本を救う―政策効果の統計分析 [著]柴田悠

[評者]諸富徹(京都大学教授・経済学)

[掲載]2016年08月07日

[ジャンル]経済 社会

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■成長優先の発想、大胆に転換

 かつて先進国で稀(まれ)にみる平等社会といわれた日本。だが、バブル崩壊から四半世紀を経て、貧困と格差が最大の社会問題に浮上した。これまで、経済成長さえすれば給与が増え、貧困や格差も自然に解消すると喧伝(けんでん)されてきた。だが、いくら成長戦略を打っても経済は停滞し、私たちの所得は減る一方だ。貧困と格差は拡大するばかり。「成長がすべてを解決する」という神話は、めっきが剥(は)がれ落ちたのだ。ここで取り上げる2人の気鋭の若い研究者は、こうした論理を転倒させる。つまり、貧困と格差の克服こそが先決であり、それが日本を救い、成長を可能にするというのだ。
 まず『18歳からの格差論』は、いまの日本社会を「分断社会」と規定する。中間層が貧しくなって弱者への優しさが失われ、育児や教育など社会サービスでは、政府責任よりも自己責任が強調される。余裕を失った社会では、格差是正への反発が大きくなる。誰かが得をすれば、誰かが損をするゼロサムゲームの世界に入るからだ。
 そこで著者は、発想を転換する。貧困層に限った救済ではなく、子育てや教育、医療など人間に共通して必要なサービスを、すべての人々に対して(無償で)保障する社会の構築である。その費用は、全員が(所得に比例して)負担する。こうすれば、すべての人々が受益者となり、お互いが、いがみ合う必要はなくなる。税は、政府から一方的に取られる負担から、暮らしのための分かち合いへと転換され、格差も是正される。
 他方、『子育て支援が日本を救う』は、子どもの貧困に焦点をあてる。高齢者向けの社会保障に比して、保育、産休・育休、児童手当、教育費支援など、子育て世帯への予算はほとんど増額されなかった。結果として子育て費用が子育て世代に重くのしかかり、子どもの貧困に拍車がかかった。これは機会の不平等をもたらし、子どもの才能の芽を摘んでしまうことで、社会全体の損失になる。
 著者は統計分析によって、子育て支援と就労支援の充実が、子どもの貧困率を引き下げ、女性の労働参加率や出生率、労働生産性を高め、経済成長率を押し上げると明らかにした。そのために必要となる予算は、所得税の累進化、相続税の拡大、資産税の累進化などの組み合わせで十分に捻出可能だと試算する。きわめて説得的な改革案だ。
 2冊はともに、子育て世帯や現役世代の貧困と格差に真剣に取り組むよう迫る、強力なメッセージを発している。社会保障は、日本ではほぼ高齢者への政策を意味してきたが、いまや大きな政策転換を行うべき時期に来たのではないだろうか。
    ◇
 いで・えいさく 72年生まれ。慶応大学経済学部教授。『経済の時代の終焉』で大佛次郎論壇賞受賞▽しばた・はるか 78年生まれ。京都大学大学院准教授。共編著『ポスト工業社会における東アジアの課題』。

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