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帰郷 [著]浅田次郎

[評者]末國善己(文芸評論家)

[掲載]2016年08月14日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■戦中と戦後つなげる想像力喚起

 戦争を描くことをライフワークにしている著者の新作は、六作の戦争小説を収めた短編集である。戦争小説は最前線で戦う兵士を主人公にしがちだが、本書は戦争が巻き起こす様々な影響を掘り起こすことで、戦争の本質に迫っている。
 南方から生還した古越庄一が、娼婦(しょうふ)の綾子に半生を語る「歸きょう(ききょう)」は、古越がようやく戻った故郷で直面した戦地以上の地獄が、戦争の悲劇を際立たせている。飢えに苦しんだ兵士のすさまじい生への執着が描かれる「金鵄(きんし)のもとに」も復員兵の物語で、生き残った者が背負う重みから戦争を捉え直しており、考えさせられる。いずれも悲劇的な物語だが、ラストに救いもあるので読後感は悪くない。
 レイテ島で戦死した父の顔を知らず、今は遊園地でバイトをしながら大学に通う武内勝男が、経済成長の裏にある戦争の影に気付く「夜の遊園地」。不寝番に立った陸上自衛隊の片山士長が、過去に同じ任に就いた陸軍の仙波上等兵と時間を超えて出会う「不寝番」の二作は、戦後社会に残る戦争の傷痕をあぶり出すことで、八月十五日で歴史を区切ることが果たして正しいのかを問い掛けてくる。
 高射砲を修理するため、敵の魚雷艇を避けながらニューギニアの小さな岬にたどり着いた清田吾市が、元職人の砲兵たちと行動を共にする「鉄の沈黙」。学生だった沢渡中尉と香田中尉の楽しげな会話で物語が進むだけに、2人の置かれた状況が分かる終盤になるとせつなさが募る「無言歌」は、戦争とは無関係な人たちが国家によって動員され、死地に向かった現実を描いており、戦争の理不尽さが身近に感じられる。
 戦争は国民を不幸にし、社会に損失をもたらす。それでもなくならないのは、戦争がもたらす悲劇を想像できないからではないか。戦中と戦後をつなげる歴史観で戦争を切り取った本書は、現代の問題として戦争を考えるための想像力を磨いてくれるのである。
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 あさだ・じろう 51年生まれ。97年『鉄道員』で直木賞。『壬生義士伝』『終わらざる夏』など著書多数。

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