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「非正規労働」を考える―戦後労働史の視角から [著]小池和男

[評者]加藤出

[掲載]2016年08月14日

[ジャンル]経済 社会

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■調査事例を基に制度改善を提唱

 働いても生活が苦しいワーキングプアや、将来不安に伴う未婚化、少子化の問題に、近年の非正規労働の拡大が影響を及ぼした面は否めない。厚生労働省の平成26年の調査によると、派遣労働者がその就業形態を選んだ最大の理由は「正社員として働ける会社がなかったから」だった(38%)。
 しかしながら、非正規労働全体を否定するかのような議論が昨今多いことに本書の著者は危機感を抱いている。「いうまでもなく、非正規労働には弊害もある。だからといって、非正規労働をなくせば、それですむ、というものではない」
 著者は非正規労働者制には三つの機能があると整理している。(1)業績悪化時に雇用を調整する機能、(2)低賃金を活用する機能、(3)正社員に登用するための人材選別機能である。(1)と(2)が乱用されると冒頭の問題につながる(最近はそういった企業は若い世代に「ブラック」と見なされ人材確保が困難になってきたが)。
 本書は(3)の人材を見分ける働きに特に焦点をあてている。調査事例を基に、非正規雇用は日本の主要産業で以前から見られたこと、技能を高めた労働者を正社員にした事例は数多くあり、それは企業の競争力にとって大きなメリットがあったことを紹介している。
 「終章」では、「非正規労働者の正規への昇格制の整備」が提唱されている。昇格条件にみやすい基準を設け、恣意(しい)性を制限することは労働者のモチベーション向上につながる。従来の新卒正社員採用方式では、企業側も応募する側も互いの情報が不足し、ミスマッチが生じてしまっていた。
 著者は生産の現場の力を高めていかないと、「高賃金国は国際競争でやぶれる可能性が高い」と危惧している。非正規労働の「合理性を活(い)かしつつ、弊害をすくなくする。そうした方策をさぐるほかあるまい」。それが結果的に「一国の競争力に寄与し、雇用の安定に資する」との本書の主張は重要と思われる。
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 こいけ・かずお 32年生まれ。法政大学名誉教授、名古屋大学特別教授(労働経済学)。『日本の賃金交渉』


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