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鉄幹と文壇照魔鏡事件―山川登美子及び「明星」異史 [著]木村勲

[評者]保阪正康(ノンフィクション作家)

[掲載]2016年08月14日

[ジャンル]文芸 人文

表紙画像

 1901年に『文壇照魔鏡(しょうまきょう)』という書が刊行される。与謝野鉄幹の私生活を徹底した悪罵の筆で描いている。だが著者名も版元も仮名、誰が書いたかは不明だ。鉄幹は、旧知の歌人高須芳次郎(梅渓)とにらみ、法廷に持ちこむ。しかし証拠不十分で敗訴になった。
 真犯人は誰か、各種の書がこの事件を追ったが、犯人像は明確にならない。著者は関連の書を読み抜き、それぞれの歌人の歩み、その心理、歌などを丹念に分析して当時の歌壇、文壇、それに出版社の姿などを追いかける。犯人さがしというより、事件の背後にある明治30年代の文人たちの姿を浮かびあがらせる。「新声」などの歌壇誌、足尾鉱毒事件、さらには鉄幹と梅渓の生涯にわたる確執、鉄幹の妻だった滝野、晶子、そして山川登美子らの感性は当時の日本人の生活感覚をはるかに超えている。登美子の和歌に盛られたこの事件の影響なども指摘、新しい登美子像が描かれている。緻密(ちみつ)な分析が新鮮だ。

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