鉄道は誰のものか [著]上岡直見

[評者]原武史(放送大学教授・政治思想史)  [掲載]2016年08月21日   [ジャンル]経済 

表紙画像 著者:上岡 直見  出版社:緑風出版

■「交通は人権」の視点に立つ評論

 ブルートレインなどの廃止が発表されると、駅のホームには「最後の雄姿」を撮ろうとマニアが詰めかける。鉄道会社が決めたことは既成の事実となり、誰も批判しようとはしない。また鉄道ライターの多くも、取材先である鉄道会社を批判すれば食い扶持(ぶち)がなくなってしまう。マニアやライターは数多くいても、真の「鉄道評論家」はいないのかと常々思っていた。
 そうした私の満ち足らぬ思いを払拭(ふっしょく)してくれる、見事な本が現れた。著者は環境政策の専門家のせいか、文体にマニアや鉄道ライターのような気負ったところがない。まるで原発の問題点を指摘するかのごとく、さまざまなデータを交えながら日本の鉄道の問題点を列挙し、鉄道会社の姿勢を鋭く批判してゆく。その淡々とした筆致がかえって説得力を与えている。
 しかも、理系の出身でありながら、問題意識はきわめて政治思想の研究者に近い。例えば、鉄道は人間を乗せているという原点に立ちつつ、「交通は人権である」という視点を打ち出している。鉄道には採算性だけでとらえられない公共性があるという観点から、ローカル線の廃止が及ぼす地域への影響についても指摘している。
 とかくマニアの間には、「日本の鉄道が世界で一番進んでいる」という思い込みがあるが、著者は海外の事例を数多く紹介しつつ、それがどれほど根拠がないかを論証する。そうかと言って無味乾燥なデータの羅列に陥っているわけでもない。随所に織り込まれる著者自身の鉄道体験が、あたかも潤滑油のような役割を果たしているからだ。
 最終章では、すでに着工されたリニア新幹線の負の側面についても言及されている。かつて私自身、反対派の市民集会で「リニアを開業させるくらいなら、新幹線の値下げを要求すべきだ」と発言したことがあった。著者も全く同じ考えだとわかり、意を強くしたしだいである。
    ◇
 かみおか・なおみ 53年生まれ。環境経済研究所代表。早稲田大学大学院修士課程修了。『乗客の書いた交通論』

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