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ビビビ・ビ・バップ [著]奥泉光

[評者]末國善己(文芸評論家)

[掲載]2016年08月21日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■AIの時代に、人とは何か問う

 伝奇小説の名作を残した国枝史郎は、複雑怪奇に入り組んだ自作を即興性の高いジャズになぞらえた。主人公が、国枝を敬愛した半村良の『妖星伝』を読んでいる本書も、ジャズを題材に、SFや推理小説の要素を取り込みながら、先の読めない物語を紡いでいる。
 人類が、電脳ウイルスの大感染による危機を乗り越えた21世紀末。ジャズピアニスト兼音響設計士の木藤桐(通称フォギー)は、ロボット製造の巨大企業の幹部で天才技術者の山萩貴矢から、墓参者がアバターを使って訪ねる架空墓(ヴァーチャルトゥーム)の音響設計を依頼されていた。
 大富豪でジャズと落語を愛する山萩は、架空墓の電脳空間にジャズクラブや寄席が華やかだった1960年代の新宿を再現。将棋の大山康晴名人、落語家の古今亭志ん生、ジャズ音楽家のエリック・ドルフィーといった伝説的な人物のロボットも作っていた。フォギーは、旧知のプロ棋士・芯城銀太郎とロボットの大山名人との対局に招待されるが、初日の夜、大山名人が密室で破壊されてしまう。
 大山名人から渡された謎のメッセージを手がかりに事件を追うフォギーは、人類存亡の危機に巻き込まれ、さらに宇宙の秘密にも行き着くので、壮大なスケールに圧倒されるだろう。
 デジタル技術が発達し、多国籍企業が強い力を持つ未来社会は、国や企業からの監視を受け入れる代わりに利便性を手にする人が増え、貧富の格差も広がっている。こうしたありうべき未来像を通して、弱者を切り捨て、日本礼賛のナショナリズムが広がる現代を皮肉っているのも面白い。
 作中では、人工知能(AI)が動かすドルフィーやチャーリー・パーカーらがセッションし、志ん生と立川談志が絶妙な掛け合いをする夢の共演も多い。アドリブもこなすが、人間ほどの表現力はないAIは、人間に備わった感性や創造力がAIに代替されつつある時代に、人間とは何かを問い掛けているのである。
    ◇
 おくいずみ・ひかる 56年生まれ。94年『石の来歴』で芥川賞。『ノヴァーリスの引用』『東京自叙伝』など。

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