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すばらしい黄金の暗闇世界 [著]椎名誠

[評者]市田隆(本社編集委員)

[掲載]2016年08月21日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■地下住居、空飛ぶ蛇、食肉ナマズ

 著者は、するする読めて深い味わいを残すエッセー集を数多く書いてきた。最新刊の本書では、その名人芸が、自然界の森羅万象やそこに関わる人間の生活を題材として十二分に味わえる。
 「暗闇世界」をめぐり、「好き」と「怖い」が隣り合わせになった、椎名誠流「陰翳礼讃(いんえいらいさん)」が展開される。子どものころ、自宅の押し入れから天井裏につながる小さな探検で暗闇の魅力を知った。無人島では漆黒の闇の理由なき怖さを体験した。さらに、岩や地面を掘り抜いて作った地下住居に住む中国の人々、ニューヨークの地下鉄の廃棄された駅や廃線となったトンネルに住み着いた数千人のホームレスなど闇に親しむ暮らしに思いをめぐらす。闇の世界の多彩なエピソードに引き込まれた。
 その「闇」語りの中で、光があふれる日本社会への批判は考えさせる。東日本大震災の原発事故による電力不足をきっかけに「エネルギーの浪費」を再検討するに至ったはずなのに、「まだまだ懲りずに無意味な『あかるさ』に大きな価値を求めている」。
 著者は、北極圏から南米のジャングルまで、世界の辺境の地を旅し、現地の人々と過ごしてきた。その経験も取り入れた「自然界の生き物」語りは、驚きの連続だ。アマゾンにいる2〜4センチの食肉ナマズは、川の中で小便をするとアンモニア臭を素早くかぎつけ、水流をさかのぼって尿道につっこんでくる。また、ボルネオの熱帯雨林にすむ蛇は、肋骨(ろっこつ)を広げて体を平らにし、空中を飛ぶという。
 著者のSF小説には、人を襲う虫や魚など、危険な未来生物がたくさん登場する。本書を読むと、想像上の生物は、著者の自然界へのあくなき好奇心が膨らんで生み出されてきたことがよくわかる。
 本書には、空飛ぶ蛇など、雑誌「ナショナルジオグラフィック」の貴重な自然写真も収められており、見ても楽しい出来栄えだ。
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 しいな・まこと 44年東京生まれ。作家。『アド・バード』で日本SF大賞。写真家、映画監督としても活躍。

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