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鮎川信夫、橋上の詩学 [著]樋口良澄

[評者]蜂飼耳(詩人・作家)

[掲載]2016年08月28日

[ジャンル]文芸

表紙画像

 戦後、詩の雑誌「荒地(あれち)」の中心メンバーとなり、詩と批評の執筆に力を注ぎ、現代詩の歩みに大きな影響を与えた詩人・鮎川信夫。今年は没後三十年だ。
 本書は、その詩と背景に踏みこむ労作。著者は編集者として晩年の鮎川に接した経験を持つ。そこから発する視点と、作品や資料から汲(く)み上げられた考察が絡み合い、従来にない鮎川論が生まれた。
 鮎川は一九四一年秋の時点で日本帝国の滅亡を確信し、日記に記す。その後軍隊に入営。戦地へ行くが、病を得た結果、生き延びた。その思考と思索は「囲繞地(いにょうち)」「橋上の人」や『戦中手記』、斬新な詩論の数々として結実する。
 著者は、鮎川の在り方に「個に内在する普遍を探る態度」を見る。鮎川は自らの体験と〈他者〉や〈歴史〉を架橋しようとするが、その難路こそこの詩人にとっての〈詩〉だったという指摘は重く響く。いまこそ読まれ直すべきこの詩人への入り口となる書だ。

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