沖縄の新聞は本当に「偏向」しているのか [著]安田浩一

[評者]斎藤美奈子(文芸評論家)  [掲載]2016年09月04日   [ジャンル]ノンフィクション・評伝 

表紙画像 著者:安田浩一  出版社:朝日新聞出版

■基地と人権、記者は問い続ける

 ジャーナリストがジャーナリストの話を聞く。取材対象は琉球新報と沖縄タイムスという沖縄の2大新聞の記者とOB約20人。
 取材のキッカケは自民党「文化芸術懇話会」での作家・百田尚樹氏の発言(2015年6月25日)だった。「沖縄のあの二つの新聞社はつぶさなあかん」。翌日、2紙は共同で異例の抗議声明を出す。抗議のポイントは「つぶせ」発言ではなく、次の部分だった。「普天間基地は田んぼの中にあった。周りには何もない。そこに商売になるということで人が住みだした」
 なぜこのようなデマがまかり通るのか。「問題の本質は沖縄に対する蔑視、差別だと思うんです。一作家の失言や暴言というレベルで捉えるべきものじゃない」とある記者はいう。
 普天間基地の敷地内にはかつて10の集落があり、約9千人が住んでいたが、住民が捕虜収容されている間に米軍が土地を鉄条網で囲い、家並みを壊し、強権的に接収した。海兵隊が岩国基地から移転したのは76年で、宜野湾市の住民は5万人を超えていた。以上が普天間の真相である。
 東京の大学を出て沖縄に戻った人。他紙から転職してきた人。95年の米兵による少女暴行事件にショックを受けて記者を志した人。記者になってはじめて沖縄の現実を知った人。年齢も経歴もさまざまな記者たちはしかし、口をそろえる。基地問題は人権の問題なのだと。政府に厳しい態度をとるのは「イデオロギーでもなければ、商いの手段でもない。戦争と差別と基地問題に翻弄(ほんろう)されてきた沖縄にあって、それは新聞の骨格であり、軸足なんです」。
 全国紙ではめったに大きく報道されることのない沖縄の現実。本書の出版後に着工された高江のヘリパッド建設工事に関しても、2紙と全国紙の温度差は明らかだ。「嫌われても、うるさいと思われても、大声で叫んでいくしかない」。それが彼らの現実。知らないって怖いと思った。
    ◇
 やすだ・こういち 64年生まれ。ジャーナリスト。2012年、『ネットと愛国』で講談社ノンフィクション賞。

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