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治部の礎 [著]吉川永青 天下を計る [著]岩井三四二

[評者]末國善己(文芸評論家)

[掲載]2016年09月11日

[ジャンル]歴史 文芸

表紙画像

■今に通じる戦国武将たちの奮闘

 大河ドラマ「真田丸」が、関ケ原の合戦に向けて盛り上がっている。タイムリーなことに、関ケ原の負け組を再評価する歴史小説が2冊続けて刊行された。
 吉川永青『治部(じぶ)の礎(いしずえ)』は、このところ人気が高い石田三成を描いている。
 三成は、有能だが、冷徹すぎて人望がなかったとされることが多い。これに対し著者は、豊臣家への義ではなく、戦乱を終わらせ日本に秩序をもたらすという大義を重んじた三成は、あえて敵役に徹したとする。
 三成が、忍城の戦いで水攻めに失敗したのも、主君に悪口を吹き込む和讒者(わんさんもの)と呼ばれたのも、理想を実現するための計略だったとして歴史を読み替えていくので、斬新な解釈には驚かされるのではないだろうか。
 何より、独裁色を強める豊臣秀吉に従っているように見せて、密(ひそ)かに政策を変える方法を考え、天下取りの野望を持つ徳川家康を牽制(けんせい)するなど、三成が孤独で危険な暗闘を続ける展開には圧倒的なスリルがある。
 三成の処刑後も、その大義は後世に継承されたとするラストは、いつの時代も古びない価値観があることを教えてくれるのである。
 岩井三四二『天下を計る』は、算用(経理)で秀吉に仕えた長束正家(なつかまさいえ)を主人公にしている。経済の視点で戦国史を捉えており、温厚誠実とされてきた豊臣秀長が、不正蓄財をしていたなど、武将の意外な一面がうかがえるのも面白い。
 九州、小田原征伐などの大合戦で物資の輸送を命じられた正家は、米を買い、蔵を建て、船を手配し運行表を作る緻密(ちみつ)な計算で、数十万人の兵に食料を届けようとする。正家がトラブルを乗り越え、困難な任務を遂行する場面は、合戦に勝るとも劣らない迫力がある。
 秀吉に政策を提言し、全国の資産を計るという夢をかなえていく正家だが、秀吉が暴君になると意見ができなくなる。別の方策があるのに、上の命令には逆らえない正家には、現代の勤め人も共感できるはずだ。
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 よしかわ・ながはる 68年生まれ。作家。『誉れの赤』など▽いわい・みよじ 58年生まれ。作家。『十楽の夢』など。

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