「文字を作る仕事」書評 怜悧にして清澄ま湧き水
評者: 佐倉統
/ 朝⽇新聞掲載:2016年09月11日
文字を作る仕事
著者:鳥海 修
出版社:晶文社
ジャンル:芸術・アート
ISBN: 9784794969286
発売⽇: 2016/07/09
サイズ: 20cm/235p
文字を作る仕事 [著]鳥海修
爽涼たる書体(フォント)デザイナー鳥海修の半自伝。ヒラギノや游書体を作った人だ。いずれも、すっきりとしていて読みやすく、それでいて心に刻み込まれる書体である。怜悧(れいり)にして清澄な湧き水を連想させる。
鳥海は、文字は文章の主役ではない、と強調する。読みやすければ読みやすいほど、書体についての印象は後景に退き、記憶に残らない。しかし、書体の善(よ)し悪(あ)しや内容との相性によって、読者の理解度や頭に残る度合いも変わってくる。
紙の書物からコンピューター画面、さらにはタブレットやスマホへと、文字を乗せる媒体も変わってきた。組み方も、従来の縦書きから横書きが主流になりつつある。それぞれの媒体や装丁に合った、よりよいフォントがあるはずだ。
しかしいつの時代にも、読みやすい文字、美しい文字は変わらず生き残る。文字は世に連れ、人に連れ。変わるものと変わらないもの。そのあわいを、鳥海は今日も追い求めている。