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希望荘 [著]宮部みゆき

[評者]市田隆(本社編集委員)

[掲載]2016年09月11日

[ジャンル]文芸 人文

表紙画像

 心優しく、控えめながら、事件に隠された人の内面を地道な調査で解き明かしていく杉村三郎は、著者が創出した現代の探偵像だ。これまで事件に巻き込まれる会社員の役回りだったが、シリーズ4作目の本書では、前作で離婚し、会社も辞めたため、東京都北区に私立探偵事務所を開いて再出発する。
 シリーズ初の短編集。亡くなる前、息子に昔の殺人をにおわした老父の告白(「希望荘」)、繁盛していた手打ち蕎麦(そば)屋店主の突然の失踪(「砂男」)など、杉村が4つの謎に取り組む。ふとした悪意や欲望が心をむしばみ、日常生活の裂け目から暗部に落ち込む犯罪者の姿が哀(かな)しい。
 しかし、予測がつかない物語を通して、人の世に心の闇はあるが希望の光もあるという著者の温かなメッセージが伝わってくる。
 妻子と離れ、孤独を抱えた杉村が、人情味豊かな地域の人々に囲まれて暮らす姿にも、著者の作品世界らしい救いを感じる。

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