世界マヌケ反乱の手引書―ふざけた場所の作り方 [著]松本哉

[評者]柄谷行人(哲学者)  [掲載]2016年09月18日   [ジャンル]経済 社会 

■階級格差に抗する陽気な連帯

 2015年夏に、安保法案に反対する大きなデモがあった。マスメディアでは、それはサウンド・デモなど、旧来と異なる新鮮なものであり、学生集団シールズがそれをもたらしたと報じられていたが、それは不正確である。このようなデモは、11年に高揚した反原発デモの延長としてあったのだ。そして、それに最も貢献したのは松本哉の率いる「素人の乱」であった。彼がサウンド・デモを最初に企てたのは、イラク戦争反対デモにおいてであるが、それ以前に、もっと珍奇なデモを幾つも企ててきたのである。その経緯をふりかえった著書が、『貧乏人の逆襲!——タダで生きる方法』(08年)である。
 しかし、彼がそこで追求していたのは、たんにデモのことではなく、まさに表題通りの問題であった。彼がいう「貧乏人」とは、1990年以後、新自由主義の下で貧窮化した人たちだといってよい。この状況に対して、二つの態度がある。一つは、中産階級の基準に固執する「賢い」生き方である。もう一つは、それを放棄した「マヌケ」な生き方だ。
 大概の人は前者を選ぶが、それは困難であって、努力しても実際にはますます貧窮化する。にもかかわらず、他人と交わり、助けあうことはしない。そして、結局、国家に頼り、排外的になる。一方、「マヌケ」たちは寄り集まり、国家にも企業にも依存しないで暮らせるように工夫する。前作ではそのやり方が書かれていた。たとえば、リサイクルショップ、日替わり店長バー、ゲストハウス、イベントスペースの運営など。つまり、資本主義的でないオルタナティブな空間を自分たちで作り出すこと。松本自身は東京・高円寺の商店街に拠点を見いだし、デモもそこから始めた。
 本書はその続きであり、やり方がもっと多彩になったとはいえ、基本的に同じことが書かれている。しかし、明らかに違っている点が一つある。それは、オルタナティブな空間を固定的に考えないことだ。実際に、つぎのような変化があった。前作がすぐに韓国、台湾で出版され、各地に「貧乏人の逆襲」、「マヌケ反乱」を生み出したのである。さらに、それらが相互につながるようになってきた。アジア以外のマヌケも参加するようになり、また、独自のパスポートや通貨を作るようになってきた。
 このような変化が生じたのは、世界各地で新自由主義経済が進行し、どこでも階級格差が深まっているからだ。それは排他的なナショナリズムをもたらす。それを避けるためには、マヌケたちの陽気な連帯が必要だ。その一例がここにある。
    ◇
 まつもと・はじめ 74年生まれ。「世界マヌケ革命」を目指すリサイクルショップ「素人の乱5号店」店主。著書に『貧乏人大反乱』、共著に『素人の乱』『さよなら下流社会』『脱原発とデモ』など。

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