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テレビは男子一生の仕事―ドキュメンタリスト牛山純一 [著]鈴木嘉一

[評者]武田徹(評論家・ジャーナリスト)

[掲載]2016年09月18日

[ジャンル]社会 ノンフィクション・評伝

表紙画像

■今こそ求められる傑物の生き様

 新卒一期生として日本テレビに入社した牛山純一は「ノンフィクション劇場」など傑作ドキュメンタリーを多く作った。本書はこの伝説的テレビ人の評伝だ。
 何もかもが初めて尽くしの民放局で牛山はテレビ独自の表現に挑戦し続けた。1959年の皇太子ご成婚パレード中継では皇太子妃のクローズアップにこだわってテレビの魅力を広く知らしめた。65年に南ベトナム軍の反政府組織掃討作戦に従軍して制作した番組は官邸からのクレームで続編が放送中止となった。表向きは首切りシーン等が残酷すぎるとの理由だったが、反米世論の高まりを政府は恐れていた。それは政治家が無視できない影響力をテレビが備え始めたことを象徴する事件でもあった。
 71年に独立し、日本映像記録センターを設立。調査と取材に長時間を割く理想的な体制を確保して作り続けられた「すばらしい世界旅行」は民俗学の研究水準に達する番組として国際的にも高く評価された。
 だが華々しさの影で軋(きし)む不協和音も本書は拾い上げる。牛山の強引さ、厳しさに反発するスタッフも少なくなかった。生前の牛山に最後にインタビューした97年夏、事務所兼自宅には人気がなく、静寂が支配していた。3カ月後に他界するほどの重病を患っていたとは気づかなかったと書く著者は、一方で牛山的なテレビ人の時代が終わりつつある黄昏(たそがれ)の気配を確かに感じていたはずだ。日本映像記録センターは膨大な映像アーカイブを残しつつ主の死をもって幕を引く。
 本書は放送界を長く取材してきた著者が牛山という傑物の生きざまを通して描き出した戦後日本テレビ史でもある。その行間から第二、第三の牛山の登場を渇望する声が聴こえてきそうだ。一生をテレビに賭ける新しい才能が今後も現れ続けることが、今やインターネットの挑戦を受けて防衛戦を強いられているテレビがなお独自の命脈を保つ必要条件となるのだろう。
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 すずき・よしかず 52年生まれ。放送評論家、ジャーナリスト。著書に『大河ドラマの50年』など。

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