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金融政策の「誤解」―“壮大な実験”の成果と限界 [著]早川英男

[評者]加藤出

[掲載]2016年09月18日

[ジャンル]経済 社会

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■「短期決戦」のはずが「持久戦」に

 日本銀行は今週水曜(21日)に、現在実施中の量的質的緩和策(QQE)とマイナス金利政策の経済への影響を評価する「総括的な検証」を公表する。世界中の金融市場関係者がその成り行きに注目している。
 なぜ日銀は「検証」の必要に迫られたのか? 本書を読むとその理由がクリアに見えてくる。2013年4月に開始されたQQEは「壮大な実験」であり、「短期決戦」型の政策だった。インフレ目標(2%)を2年で達成するため、国債の大規模購入などが実施されてきた。
 その「緒戦の成果は驚くほどポジティブ」だったが、経済や物価はその後鈍化、14年秋に国債購入の拡大等が決定された。だが「戦局は悪化」、追加緩和の「弾薬切れ」が市場で意識される中、日銀はマイナス金利を導入するが「不発」となる。図らずも「持久戦」に突入する事態となった。
 この3年以上の「実験」によって明らかになったのは「日本経済の長期低迷の原因はデフレではなかった」という点だと著者は鋭く指摘する。金融緩和に過度に頼るよりも成長戦略で潜在成長率を引き上げることが極めて重要だという。
 今のままでは財政破綻(はたん)が起き得るが、潜在成長率を1%上げられれば「20~30年後の生活水準は2~3割上がり、社会保障もある程度充実できる」。しかし、それがないままで増税や社会保障給付削減が不可避となれば「将来の私たちの暮らしは相当ミゼラブルなものとなってしまう」。
 だが、日銀の政策が国債の金利を低く抑え込んでいるため、市場が警告を発する機能は麻痺(まひ)し、政治家や国民の危機感は乏しい。
 本書は日銀が「検証」に取り組む前に書かれたが、日銀は「虚心坦懐(きょしんたんかい)」に検証を行うべきだとの先見的な主張がなされている。最近の日銀幹部は「虚心坦懐」という言葉をよく使う。今週発表の「検証」が著者の強い危機意識をくみ取ったものになるのか注目される。
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 はやかわ・ひでお 54年生まれ。日本銀行理事などを経て、富士通総研経済研究所エグゼクティブ・フェロー。

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