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野蛮から生存の開発論―越境する援助のデザイン [著]佐藤仁

[評者]諸富徹(京都大学教授・経済学)

[掲載]2016年09月18日

[ジャンル]経済 社会

表紙画像

■縦割りの「欠陥」が裾野広げた

 日本の開発援助とは何かを問い直す、良質な思考の書が現れた。本書はアマルティア・センの思想を踏まえ、途上国の「不足」ではなく、彼らが「もっているもの」に着目してそれを伸ばすアプローチを重視する。その上で、明治以降の日本の経済発展や戦後の経済成長の経験が、日本の開発援助の理念と実践にどのように影響を与えたかを明らかにする。日本こそ、欧米と異なって、まさに「あるものを伸ばす」開発援助政策をとってきたとの指摘には、蒙(もう)を啓(ひら)かれる思いがする。
 著者によれば日本の開発援助は、通説のように戦後賠償の一環として受動的に始まったのではなく、きわめて積極的・戦略的側面をもっていた。つまり、日本製品の輸出市場の開拓と原料確保が目的とされたのだ。まさに「国益重視」で、「開発援助=日本のため」だった。しかし、高度成長期以降はこの問題が解決されて目的を失い、援助理念探しの漂流が始まる。
 日本の開発援助行政が外務省など多くの省庁に分散する「欠陥」のおかげで、ODA(政府の途上国援助)の裾野が広がり、多分野で援助人材の育成が進んだとの指摘は興味深い。さらに、分散型ゆえ民間企業が開発援助に参入しやすく、彼らを巻き込んで日本の力が底上げされた。
 著者はしかし、現状に満足しない。いまこそ国益と切り離す形で、真にグローバルな課題の解決を目指す援助庁創設を検討すべきだと主張する。その際には、著者が大来佐武郎(おおきたさぶろう)らの開発援助理念を検討して引き出した、「『日本型モデル』を押し付けない日本型開発援助」が重要な役割を果たすのだろう。それは、唯一無二の正解を適用する開発援助モデルではなく、対象国の特殊事情に応じて彼らに寄り添い、発展を助ける実践的な知の体系だ。日本が培ってきた国際的評価を活(い)かし、国益に縛られない開発援助を実行するプロ集団をつくるべきだとの主張に、賛意を表したい。
    ◇
 さとう・じん 68年生まれ。東京大学東洋文化研究所教授。『「持たざる国」の資源論』『稀少資源のポリティクス』。

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