ウルトラQの精神史 [著]小野俊太郎

[評者]市田隆(本社編集委員)  [掲載]2016年10月02日   [ジャンル]社会 

■怪獣番組が映した社会の矛盾

 円谷プロの空想特撮シリーズの第1弾として1966年にテレビ放映された伝説的ドラマ「ウルトラQ」。本書はその全28話を分析し、その意味を問い直す作品論だ。子供向け怪獣番組の枠にとどまらず、高度成長期にあった当時の日本の社会問題も反映させた骨太のSF世界だったことを浮き彫りにしている。
 64年生まれの私は、子供のころにウルトラシリーズに熱中した世代で、原点のウルトラQはその時期に再放送で見たと思う。その後に続くウルトラマンのようなヒーローは登場せず、怪獣や異常現象に立ち向かうのはあくまで人間のために地味な印象。子供にはよくわからない内容が多かった記憶がある。だが、本書によって奥深い面白さを知った。触発されてDVDで全28話を見てしまった。
 ガソリンから電気まですべてのエネルギーを吸い込む風船怪獣バルンガの出現により、普段は果てしない騒音に包まれる東京ですべての経済活動が停止した。兵器で怪獣と戦う人間だけではなく、「こんな静かな朝はなかった」とバルンガを肯定する登場人物もいる。その他の話でも、人口が増えすぎた過密都市の解消に人間を8分の1サイズにする計画、家族から疎まれ、上司からも叱責(しっせき)された会社員が現実逃避で乗り込もうとする異次元列車……、著者は「何かのきっかけで、当たり前と思える常識世界がバランスを失い」「急ごしらえの戦後社会の矛盾が飛び出してくる」と指摘。「それこそが『ウルトラQ』が描こうとした現実であった」という。
 また、こうした世界を描いた背景として、「築き上げて維持しているはずの社会のシステムが足下から崩れる」不安を66年当時の日本が抱えていたとする。この不安感は今も底流にあるのではないか。DVDは白黒画面だったが、内容は古びていない。脚光を浴びる「ゴジラ」の新作に対し、50年前のSFドラマも示唆に富み、負けていない。
    ◇
 おの・しゅんたろう 59年生まれ。文芸・文化評論家。『ゴジラの精神史』『スター・ウォーズの精神史』など。

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