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マイナス金利政策―3次元金融緩和の効果と限界 [編著]岩田一政・左三川郁子・日本経済研究センター

[評者]諸富徹(京都大学教授・経済学)

[掲載]2016年10月02日

[ジャンル]経済

表紙画像

■デフレ打開の切り札?弱点は?

 9月に日銀は、政策目標の軸足を資金供給量から金利に転換すると発表した。もっとも、金利のマイナス幅拡大は見送る一方、量的緩和の旗を降ろさなかった。だが筆者らは試算に基づき、日銀による高水準の国債買い取りが続けば、市場で日銀が国債を買い尽くし、2017年6月にもその限界が訪れると警告する。つまり量的緩和は早晩、行き詰まるのだ。
 究極の問題は、黒田総裁が時期尚早として語らない、金融政策の正常化だ。日銀が将来的に金利を引き上げれば、金融機関が日銀内に保有する当座預金への金利支払額が著しく増え、日銀が巨額損失を被る可能性が出てくる。また、現在の国債買い取りペースを緩めれば、日銀が資産としてもつ国債の価格が下落し、その財務が毀損(きそん)する恐れもある。政府が損失補填(ほてん)する事態になれば、日銀は独立性を失うだろう。
 量的緩和に限界があるなら、デフレ克服には金利政策を効かせるほかない、というのが本書の立場だ。つまり、マイナス金利をさらに引き下げる方向だ。これは、資金を借り入れて事業に挑む企業や、住宅ローンを組む消費者にとっては追い風だ。だが、この政策には弱点もある。預金者が、利子収入の減少や口座手数料の値上げを回避しようと、銀行から預金を引き出し現金の形で保有する可能性があるからだ。
 そこで本書は、電子マネーやフィンテックなどを活用したキャッシュレス社会に移行して人々の利便性を高めつつ、現金シフトを封じてマイナス金利政策の実効性を高めることを提言する。現に、日本に先行してマイナス金利を導入した北欧諸国では、キャッシュレス化が進行中という。
 我々は、成長率も人口増加率も、そして金利までもがマイナスになる、文字通りの「水没社会」に移行するのだろうか。我々の生活に巨大な影響を及ぼすマイナス金利政策を理解する上で、必読の書である。
    ◇
 いわた・かずまさ 日本経済研究センター(民間研究機関)理事長/さみかわ・いくこ 同センター金融研究室長。

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