外来種は本当に悪者か?新しい野生 THE NEW WILD [著]フレッド・ピアス [訳]藤井留美

[評者]佐倉統(東京大学大学院情報学環長・科学技術社会論)  [掲載]2016年10月23日   [ジャンル]科学・生物 社会 

表紙画像 著者:フレッド・ピアス、藤井留美  出版社:草思社

■絶賛と否定、評価割れる話題作

 すでに多くの書評が出て、ネット上でもなにかと話題の本である。評価は絶賛と全否定と、真っ二つに分かれている。ここではそれを踏まえて、論じたい。
 本書の内容は以下の通りだ。自然保護運動では在来種を守ることが「善」であり、外来種は無条件に排除すべきものとされる。それはおかしい。古来、生態系はいろいろな種が外から入ってきて、在来種と入れ替わり、置き換わりして新たな多様性を生み出してきた。生態系は常に変遷する。それが「新たなる野生(本書の原題)」の姿なのだ、と。
 本書への主な批判点のひとつは、著者のこの主張が目新しくないというものだ。今どき「外来種=悪」という生態学者なぞいない、著者の生態学観は古い。この指摘はその通りだと思う。
 一方で、一部の自然保護運動が教条主義的に外来種を排斥していることも事実だろう。地域参画型の自然保護活動を長年続けている岸由二が本書の解説で、そういった人たちから非難を受けたと苦々しく告白している。
 本書へのもうひとつの批判は、在来種がもたらす経済的・産業的便益が配慮されていないというものだ。単に生態系が繁栄すれば良いというものではない。在来種でなくては産出できない生産物があり、それに依拠する産業と生活がある。
 たしかに、著者の主張が単純化されて受け取られ、在来種を保全する健全な運動の足を引っ張ることが危惧される。しかし丁寧に読めば、著者は外来種ならなんでも良いのではなく、大事なのはバランスだとも述べている。この点、邦題は誤解を招くだろう。
 著者の立場に賛成にせよ反対にせよ、外来種を善か悪かの二分法で片づけてしまうのは、言論の貧困である。自然保護に限らないが、極論だけで話を進める先に建設的な未来はない。この本をきっかけとして、丁寧な議論を始めることこそが必要なのだと思う。
    ◇
 Fred Pearce 英国人ジャーナリスト。著書に『地球は復讐する』『水の未来』『緑の戦士たち』など。

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