「時代区分は本当に必要か?」書評 中世とルネサンス、揺らぐ境界
ISBN: 9784865780796
発売⽇: 2016/07/25
サイズ: 20cm/214p
時代区分は本当に必要か?―連続性と不連続性を再考する [著]ジャック・ル=ゴフ
先月久しぶりにフィレンツェを訪れ、ミケランジェロが設計した二つの小さな建築空間があまりに素晴らしく、合計5時間も観察した。イタリアのルネサンス期は革新的なデザインの方法論が創造された。実際、この時代は美術や文化の分野で多くの天才が輩出したことが知られていよう。一般的な歴史の時代区分でもルネサンスは中世から断絶する、近世の始まりとして位置づけられている。だが、こうした見方に異を唱えるのが本書の目的だ。
中世史を専門とする著者は、政治的な事件や偉人から歴史を解釈することを批判し、社会の諸要素や民衆の生活などに注目したアナール学派の研究者である。本書はまず時代区分のパターンを整理し、「中世」や「ルネサンス」の概念が歴史的にどのようにつくられたかを検証したうえで、中世が「闇の時代」とされてきたことに疑問を投げかけ、最後に「長い中世」という考え方を提示する。
彼によれば、ルネサンス期の特徴とされる変化はさかのぼって中世にも指摘しうる。逆に魔術が実際に始まるのは15世紀で、“新大陸の発見”などの新しい状況も、本当に影響を及ぼしたのはもっと後の時代だった。すなわち、中世とルネサンスは不連続性よりも連続性が強く、両者は重なっており、長い中世において複数のルネサンスが発生したという独自の歴史観が示される。そして中世から近代への決定的な断絶は、産業や学問が大きく変わり、フランス革命が起きた18世紀に見出(みいだ)すことができる。
フランス人だけに自国びいきに見えなくもないが、日本も敗戦したからといって、社会のすべてがいきなり変わったわけではない。グローバリズムやIT化の潮流も同様だろう。ラディカルな断絶がもたらされることもあれば持続しつつ緩やかに動いていくこともある。本書は歴史をヘンに単純化して理解するのではなく、複眼的に認識するまなざしを与えるだろう。
◇
Jacques Le Goff 1924~2014年。フランス生まれ。「アナール」誌編集責任者。『煉獄の誕生』など。