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デジタル・ゴールド―ビットコイン、その知られざる物語 [著]ナサニエル・ポッパー

[評者]円城塔  (作家)

[掲載]2016年10月30日

[ジャンル]経済

表紙画像

■ネット上の通貨、手作りの誕生

 ビットコインと呼ばれるデジタル通貨、あるいは仮想通貨、それとも暗号通貨の名前をきいたことのある人は多いはずである。
 このビットコインなるものが「サトシ・ナカモト」を名乗る正体不明の人物によって発明されたことを知っている人もいるはずだ。
 どうもそのビットコインなるものは国家をこえた力を秘めており、投機の対象ともなりえ、初期からの投資者は莫大(ばくだい)な利益を上げたらしいという話をきいたこともあるかもしれない。
 本書はこのビットコインの成立過程を取材したノンフィクションである。
 ある日、オンライン上にその基礎となる論文が投稿され、勘のよいハッカーたちに熱烈に歓迎され、ビットコインは一躍世界の表舞台に飛び出した、というイメージとはほど遠い、個々人の苦闘が描かれている。
 まず驚かされるのは、ビットコインが、理念を支えるための道具として登場するところである。他者に迷惑をかけない限り自分の行動は自由であるはずだとするリバタリアニズム、自由至上主義者たちの夢の通貨として。この時点からビットコインは投機の対象ではなく、自由を獲得するための道具とされている。
 運用がはじまったばかりのビットコインは脆弱(ぜいじゃく)で、ボランティアによる管理はいきあたりばったりである。関係者の中にコンピュータの専門家は少なく、経営の経験がある関係者はさらに少ない。
 登場人物たちに過剰に備わっているのは資金でも技術でもなく、ほとんど理念への熱意のみである。
 地理的な条件にしばられないネットの世界のできごととして東京の街も登場し、主要な役目を担ったりもする。その東京は我々の知る東京ではなく、まるでサイバーパンクの舞台である。本書には、冗談抜きで殺し屋なども登場する。
 プログラミングで世界を変えることができるとされる。どうも、ただのスローガンではないらしい。
    ◇
 Nathaniel Popper ロサンゼルス・タイムズ勤務を経てニューヨーク・タイムズ紙記者。米ブルックリン在住。

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