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黒い司法―黒人死刑大国アメリカの冤罪と闘う [著]ブライアン・スティーヴンソン

[評者]立野純二(本社論説主幹代理)

[掲載]2016年11月13日

[ジャンル]政治 社会 国際

表紙画像

■強権の理不尽さ、和解への希望

 米国の社会には、暗黙の「おきて」があった。
 白人が人種差別をあらわにすれば、信用を失う。
 黒人が社会に怒りをぶちまければ、人生を失う。
 大統領選でのトランプ氏の勝利で、白人の不文律は崩れたが、黒人を縛る心の足かせは変わらない。オバマ大統領も人前で怒りを見せることはなかった。
 ノンフィクションである本書が描く市井の人びとにも、おしなべて感情の起伏が感じられない。司法差別という強権の理不尽さと、それに耐える人間の静寂との対比が、かえって怒りの大きさを雄弁に物語る。
 著者は、南部アラバマ州を拠点に、黒人や貧困者の救済活動を続ける弁護士である。80年代から数十人の死刑囚の命を救ってきた。
 白人の人妻と交際した黒人が、無関係な殺人事件の犯人に仕立てられる。本書の主軸を成す驚愕(きょうがく)の事実はほんの一例でしかない。
 人口約1割の黒人が、死刑執行の4割超を占める。刑務所への収監率はいびつに高く、今のペースが続けば、今世紀に生まれた黒人男児の3人に1人は収監される計算になるという。
 まるで黒人であることそのものが犯罪であるかのように厳罰を科す司法に正義はあるのか。白人警官による黒人の射殺が相次ぐ今、各地で暴動が絶えない。
 ただ、本書の中で紹介される冷酷な白人矯正官との一幕が、印象深い。死刑囚が自分と同様に里親育ちだと知ると、急に心を開き、やさしい人間に変わる。
 著者の最大のメッセージは、差別の告発ではない。和解への希望である。トランプ現象が象徴するような不寛容の氷を溶かすための慈悲のすすめである。
 「私たちはみな誰かを傷つけ、傷つけられてきた」「壊れているという点で私たちは同じなのだ」「私たち誰もが(略)自分の弱さを、欠陥を、偏見を、恐怖を認めたらどうなるだろう」
 ヘイトの言葉があふれる現代日本の社会にも通底する問いが、そこにある。
    ◇
 Bryan Stevenson 弁護士。米アラバマ州モンゴメリーを拠点とする「司法の公正構想」の事務局長。

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