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広がるミサンドリー―ポピュラーカルチャー、メディアにおける男性差別 [著]ポール・ナサンソン、キャサリン・K・ヤング

[評者]斎藤美奈子(文芸評論家)

[掲載]2016年11月20日

[ジャンル]社会

表紙画像

■男性は暴力的? 描き方問う

 ミソジニーという言葉を聞いたことがないですか。日本語でいえば、女性嫌悪または女性蔑視。そのカウンターパートに当たる概念がミサンドリー。男性嫌悪または男性蔑視だ。
 〈ミソジニーは何十年も研究され、真剣に受け止められている。その一方でミサンドリーは何十年も無視されたり軽視されてきた〉と著者はいう。
 過去の性差別はミソジニーの形をとってきたが、フェミニズムの成果として、文化における男性中心主義は1990年代までに大きく是正され、少なくとも今日、公の場での女性差別的な表現は許されない。
 それに比べて男はどうだ。男性差別は是正されていないどころか、認識もされていないじゃないか。ミサンドリーはむしろ助長されている!
 それが著者の主張。
 本書は主にアメリカとカナダの90年代のポピュラーカルチャー(本、映画、テレビ番組、広告など)を対象に、ミサンドリーを徹底分析した研究書である。日本の読者にはなじみの薄い作品も多く、必ずしも取っつきのいい本ではない。が、それでも読み進めるにつれ「あるある」感に苦笑し、随所で「ヤバッ」と思わざるを得なくなる。男性差別的な表現には典型的なパターンがあるからだ。
 たとえば「笑われる男性」。今日のコメディーは黒人やユダヤ人や女性など、特定の集団を嘲(あざけ)りの対象にしない。ただし男性だけはOKだ。マッチョな男、無能な男、下品な男が好んで描かれる。〈ミサンドリーはただ単に面白いだけでなく、もうかると考えられている〉のだ。
 さらに男性は生得的に暴力的で支配的で戦争を好む存在とされ、〈男性たちはほとんど全ての人の苦しみに集団的に責任がある〉かのように描かれる。実際には支配者も戦争好きな男性も少数だというのに。
 そしてついに男性は、人間以下の獣の地位におとしめられ、超人的な悪魔のごとく扱われる。『美女と野獣』しかり、『羊たちの沈黙』しかり。
 被害妄想なんじゃない? などの予想される反応を、著者はぴしゃりと退ける。〈男性が現在黙っているのは、文字通り過去に女性が黙っていたことと同じである〉。そのうえ〈男性は「男なら潔く黙って耐える」ことを求められる〉。
 スタートしたばかりの研究ジャンルゆえ、戸惑いや反発を覚える人も多いだろう。しかし、けっして軽視できない視点。
 訳者の久米泰介氏は日本のミサンドリーの例として、マンガの『ワンピース』、宮崎駿のアニメ作品、そして手塚治虫作品をあげている。興味津々。日本の作品の分析もぜひ読みたい。
    ◇
 Paul Nathanson マギル大学(カナダ)宗教学部の元研究員。宗教と世俗化の関係を研究。
 Katherine K.Young マギル大学名誉教授。宗教学博士。学術書でジェンダー分野の編集に関わる。

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