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メタル建築史―もうひとつの近代建築史 [著]難波和彦

[評者]五十嵐太郎(建築批評家・東北大学教授)

[掲載]2017年01月15日

表紙画像

■鉄の機能・表現、進化と行方探る

 本書は金属(主に鉄)を軸に展開する建築論であり、特定の素材から近代建築史を描くものだ。が、単純な技術史でもない。
 通常、日本において建築学科は工学部に所属するが、構造、工法、材料、環境、計画、意匠など多岐にわたる分野を抱え、さらには歴史の講座もある。こうしたハイブリッドな状況に呼応するかのように、著者は分析のフレームとして「建築の四層構造」を掲げる。すなわち、建築は第一に物理的なモノであり、第二にエネルギーの制御装置で、第三に生活のための機能をもち、第四に意味をもつ表現や記号だという。著者は以前からこれらの視点を提唱していたが、本書は四層の相互作用、ズレ、統合からメタル建築の進化を位置づけ、説得力をもたせている。
 起点は、建築史家・鈴木博之の40年前の著作『建築の世紀末』を技術史として読みとく作業だ。19世紀は産業革命で社会が激変し、鉄を建材として使えるようになったが、建築家サイドがまだ上手(うま)く使いこなせず、解決は20世紀に持ち越された。著者によれば、鉄骨構造は壁を減らし、ガラスに変えることができ、軽量化など建築の非物質化を促進する。多くの具体例から建築家や国ごとの鉄の使い方の違いを説明するくだりは大変に興味深い。
 そしてポンピドゥーセンターなど、1970年代に登場したハイテック・スタイルは四層構造がそのまま表現を決定づけたと評価しつつ、断熱性に欠け、エネルギー負荷が大きい欠点を指摘する。ゆえに、21世紀は環境に配慮したエコテックの他、仮設や移動可能な建築などが重要になるという。
 著者はアルミニウムの実験住宅などを手がけた建築家である。と同時に、大きな歴史の意識をもっている。だからこそ、細部に注目し、第一層と第二層の技術面を丁寧に論じながら、第四層の意匠がメインになりがちなよく知られた建築史のストーリーに、別の相貌(そうぼう)を与えることに成功している。
    ◇
 なんば・かずひこ 47年生まれ。東京大学名誉教授、難波和彦+界工作舎代表。『進化する箱』『家の理』など。

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