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最後の資本主義 [著]ロバート・B・ライシュ

[評者]諸富徹(京都大学教授・経済学)

[掲載]2017年01月22日

[ジャンル]経済 社会

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■拮抗力なき時代の新たなルール

 近年の格差拡大と、再分配政策の重要性は、広く認識されている。だが著者は、政府が再分配しても問題を解決できないと訴える。そもそも「市場ルール」が圧倒的に大企業に有利だからだ。その傾向は1980年代以降、特に顕著だ。著者はそのことを、所有権、独占、契約、倒産、(それら各プロセスの)執行について圧倒的な説得力で例証していく。市場が巨大な格差増幅装置として働く限り、政府が事後的に是正しても効果は雀(すずめ)の涙だ。
 例えば、所有権や特許の保護期間は長期化し、あらゆる派生物に及ぶ。経営者は破産で合法的に年金債務から逃れ、労働組合を解体できるが、個人は住宅ローンや学費ローンの重圧から逃れられない。消費者保護や金融規制も、執行段階で無力化される。こうして常に大企業、株主、富裕層の立場が強化され、中小企業、消費者、貧困層の権利は弱体化してきた。市場のルールは、決して中立的ではないと著者は強調する。
 60年代まで経済成長と中間層形成が両立しえたのは、米国社会で労組、農協などの「拮抗(きっこう)力」が存在し、政府が市場ルールを通じて大企業や富裕層を牽制(けんせい)しえたからだという。いまや拮抗力は打ち破られ、民主党までもが政治資金を獲得すべく、金融機関、大企業、富裕層になびく。
 政党に見放された国民のワシントン不信は、米国大統領選で顕著に表れた。著者は是正に向けてまず、拮抗力を取り戻すべきだと提言する。今後の米国の政治的対立軸は、共和党/民主党から、現体制支持/反体制にシフトする兆候が現れているという。新しい多数派形成で市場ルールを組み直し、逆再分配を止める。
 「政府による事後的再分配」から「市場ルール改革による公正経済」へ。本書は中間層が没落し、格差が拡大し続ける中で資本主義改革の新しいアジェンダを打ち出した点で、経済論壇の風景を一変させうる重要な問題提起の書だといえよう。
    ◇
 Robert B. Reich 46年生まれ。経済学者。オバマ大統領のアドバイザーなど歴任。『暴走する資本主義』など。

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