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建築史とは何か [著]アンドリュー・リーチ

[評者]五十嵐太郎(建築批評家・東北大学教授)

[掲載]2017年03月19日

[ジャンル]歴史

表紙画像

■あらゆる事象つなぐ知の交差点

 20世紀の半ば、日本の建築家にとって古建築を学ぶことは、伝統を意識し、モダニズムに指針を与えることにつながった。またポストモダンの時代は、歴史建築の引用が流行し、デザイナーにとって建築史は無視できない学問だった。スター建築史家も注目されていた。しかし、21世紀に入り、新しい世代の建築家の歴史意識が薄くなり、建築史は堅実な実証主義の学問として意匠論と切り離される傾向にある。そうした状況を寂しく思っていたが、本書は、西洋における建築史の意義を問い直す。
 第1章で確認されるのは、建築学と歴史学の交差である建築史が、考古学、哲学、美術史、19世紀の文化科学など、様々な分野の影響を受けながら、近代的な学問として成立したこと。それは建築というジャンルがそもそも雑種的な性格をもつからだ。第2章は建築史の方法論を検証し、第3章では、研究の根拠となる資料が拡大し、近年は写真や絵はがきなどのメディアも情報源になったという。
 第4章は、設計に役立つという考え、教養を豊かにする研究、あるいは批判的な精神を育むといった建築史の三つの立場を整理。そして最終章は、モダニズムと共犯関係を結んだ建築史に対し、1960年代以降に頭角を現した批判的建築史を扱い、様々な理論が生まれた背景を描く。それは骨董品的な建築史ではなく、知を相対化する歴史・批評だった。評者も大学院のときに記号論、脱構築主義、表象分析、ジェンダー論、ポストコロニアル理論などの影響を受けた論文を精力的に読んだので、懐かしい名前が散見される。と同時に、90年代の先鋭的な建築論もすでに歴史化されていることに感慨を覚えた。
 専門外の人にとっては固有名詞が多く、読みにくいかもしれない。が、名前を気にせず読めば、学際的な性質をもつ分野ゆえに、建築があらゆる事象と回路をつなぎ、多くの人が楽しめる内容のはずだ。
    ◇
 Andrew Leach 76年ニュージーランド生まれ。オーストラリアのグリフィス大学で建築史を教える。

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